だれかに話したくなる本の話

『思考の整理学』著者による「日常」が変わるエッセイ

刊行から30年以上経過し、今なお読まれ続けている『思考の整理学』。その著者である外山滋比古氏による、当たり前の日常が変わる68の「視点」が書かれたエッセイ集が『惰性と思考』(扶桑社刊)である。

本書では、日常の中で外山氏がどんなことに目を向け、何に心を動かされ、何を考えているのかが書かれている。

例えば、日本人は口で食べる前に目で食べる傾向がある、と外山氏は述べる。
外山氏がリンゴの産地に行ったとき、「キズのあるリンゴをくれないか」と言うと、道端の屋台を開いていたおばさんから「お客さん、通だね」と褒められたという。なぜなら、キズのあるリンゴを頼んだ理由は甘いからだ。
外山氏はキズができるとそれをかばって糖分を余計に出すから美味くなる、という話を聞いてから、それを信じて、できればキズのある果物を求めることにしているという。

ところが、一般の人はキズなどひとつもないものでないと買っていかない。 これに対して、人間も少し苦労のキズがあったほうが、味があると語る外山氏。しかし、この頃の家庭では、いかにも頭の良さそうな優等生を育てようとしているが、味のある人間にするには失敗というキズも必要なのではないか。「若いときの苦労は買ってもせよ」と、外山氏は読者に言葉を贈っている。

こうしたちょっとした「視点」が書かれたエッセイが68収録されている。 英文学、思考、日本語論など、さまざまな分野で創造的な仕事を続けている外山氏の頭の中を読むことができる。人生の先輩から日常を生きる上で学ぶべきことも多いはずだ。

(新刊JP編集部)

惰性と思考

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95歳、脚下照顧という生き方。

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