だれかに話したくなる本の話

「歩きスマホは、目にも悪影響!」 眼科医が教える視力低下のメカニズムとは

近視やスマホ老眼が社会的な問題となっている今、注目を集めているのが「ガボール・アイ」という視力回復法だ。

これは「ガボールパッチ」という複数の縞模様が並んだシートから、同じ模様を探すというゲーム感覚のトレーニング法。2017年3月にはニューヨーク・タイムズで取り上げられ、アメリカで話題になった。

そんな「ガボールパッチ」を初めて日本で紹介した眼科医は、テレビでも活躍中の平松類さん。
2018年に出版した『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ刊)は20万部を突破し、今なお書店のランキングにランクインし続けている。

この本について、「とことんエビデンスにこだわった」という平松さん。近視・老眼のメカニズムや、ガボールパッチによるトレーニングの効果についてお話を聞いた。

(新刊JP編集部)

■電車に乗っているときや歩きスマホは特に注意? 近視が進むメカニズム

――『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』についてうかがいます。ガボールパッチは近視や老眼の改善が期待できるとされていますが、そもそもなぜ近視になるのか、そのメカニズムを教えてください。

平松:これには複数の説がありますが、本当のことを言うと、なぜ近視になるのかという確定的なものはないんです。

例えば、外で遊ぶなど遠くを見ている人の方が、近視になりにくいといわれたりしますよね。確かにシンガポールの研究では、お昼休みに外で遊ぶ子とそうでない子にそういう違いが出ています。また、視力がすごく良いアフリカの方が日本に来て視力が下がったり、パソコンを使い始めた高齢の方が急に近視が進むということもありますが、経験的なものからそうだといわれているだけなんですね。

――つまり、なぜ近視になるのかはよく分かっていないということですか?

平松:そういうことになります。ただ、説としてよくあげられるのが、手元を見続けた結果、目の奥にある網膜でピントが上手く合いにくくなるというものです。

人間は目から近いものを見ているとき、すごく目の筋肉を使っています。でも、現代は遠くよりも手元を見ている時間の方が長いじゃないですか。筋肉は疲れっぱなしです。 そこでどうなるかというと、目の玉が大きくなったり、伸びるんです。そうすれば筋肉を使わなくても奥にある網膜にピントが合いやすくなります。一方で、逆に遠いものは見にくくなる。

つまり、人間にとって近くのものを見るという行為は、かなり負担をかけることでした。ところが、現代は遠くを見るよりも近くを見ることが圧倒的に多くなった。そうした環境に適応した結果が近視であると考えたほうが分かりやすいかもしれませんね。

――このガボールパッチを使ったトレーニング、つまり「ガボール・アイ」は眼球の中で起きているピントのズレを補正してくれるものなのでしょうか。

平松:そうではありません。これは目の玉で起きていることではなく、脳に対して働きかけるというものです。

物は目で見て認識していると思っている人も多いと思いますが、聴覚、嗅覚を含めた五感は結局脳で認識します。だから、脳の処理能力が低下していれば、目の機能はしっかりしていても視力は落ちてしまうんですね。

私たちは物を見ると、ぱっちりとピントが合っているように感じます。でも、実際の網膜に写った像は多少上下にブレていたりするんですよ。そのブレた画像を脳がオートで補正し、ピントが合っているように認識できるようにしているんです。

――カメラのオートフォーカス機能のような働きを脳がしている。ということは、網膜に写っている風景は私たちが認識している風景とは少し違うことですか?

平松:実際はブレているという点では、そういうことになりますね。また、人間の目には「盲点」という見えない部分があるのですが、普通は全て見えているように感じますよね。それは脳が盲点の部分を補正しているからです。

――「スマホ老眼」が問題になっていますが、これも脳との関連性があるのでしょうか。

平松:そうですね。スマートフォンを見続けること、特に寝る前のスマートフォンや電車や車の中や歩きスマホなど揺れる環境での長時間のスマートフォンの使用は、脳への負担がかなり大きくなります。

――なぜ揺れる環境でスマートフォンを見ることは良くないのですか?

平松:揺れる環境にいると、スマートフォンと目の距離が一定に保ちにくいですよね。常に脳がピントを細かく合わせ続けないといけない。そうなると、パソコンでいうところのメモリをたくさん使う状態になるんです。もしくは、脳が疲れてしまうといったほうが分かりやすいかもしれません。その結果、目も見えにくくなってくる。

■「売れる要素」よりも「エビデンスがあるもの」が大事

――「ガボール・アイ」でトレーニングすることで、脳の処理能力を上げる。そもそもこの本を出された経緯をお聞かせください。

平松:眼科医として「目をよくする方法はないんですか?」ということを患者さんからも、テレビに出演したときも聞かれたりするのですが、実際はないんですよ。もちろん理論的に視力回復するであろう方法は沢山あります。そのなかから副作用のないものをご紹介してきました。ただし、どんなに理論的に優れていたとしても、実際に患者さんを対象として直接的な因果関係を証明しているものは残念ながら一つもなかったのです。

ただ、4、5年くらい前ですかね。たまたま「PubMed」という医学系の英語論文を調べられるウェブサイトで老眼について調べていた時に、「ガボールパッチ」についての論文を見つけたんですね。
でも、どう見ても眉唾ものっぽいじゃないですか。だから、まずは当時勤務していた病院の院内研究で、近視と老眼の職員30~40人ほどを対象に試してもらって、結果を見てみたんです。

そうしたら8割ほどの人が、平均0.2ほど視力が上がるという良い結果が出まして。これは全くよくならない2割の人を含めているので、改善した人の中には0.4から0.5良くなった人もいました。

――実際にやってみてもらったら効果が見えた、と。

平松:そうです。さらに連続講演会で2回以上講義があるときは聴講されている方々に試してもらったりして。その結果、だいたい8割の方には視力に良い影響があることが分かりました。

なので、患者さんにも勧めたりしていたのですが、ある程度長期的に続けることが大切なので、いろんなパターンのガボールパッチがあったほうがいいと考えていました。ちょうどそこに、出版元のSBクリエイティブさんから本のお話をいただいたということです。

――本書をつくるうえで気を付けたことはありますか?

平松:同じような絵柄が続くので、カラフルにしたり、写真を入れたりといった工夫を取り入れて、面白い本にするのではどうですか?と出版元から言われました。ただ、実はカラフルだから効果が上がるというエビデンスはないんです。実際にエビデンスがあるのは、白または灰色の背景で白黒のパッチ(縞模様)のものだけです。

それは、「効果がない」というわけではなくて、「誰も実証したことがないから効果があるかどうか分からない」ということです。私はよく分かっていないことを本にはしたくなかったので、売れないかもしれないけれど、カラフルにはせず、ページの上の部分に色を入れていいとだけ言いました。

――本が売れるために「実証されていないけど楽しそうなもの」を取り入れるのではなく。

平松:そうです。これは他の健康本でもよくあることで、「確かに理論的には効果がある可能性もあるけれど、エビデンスがない」ということも多いです。

例えば、自律神経を整えて、目の緊張がほぐれた結果、視力が改善されるかもしれない。それで実際に5人から6人くらいに試してもらったところ、「良くなりました」という声があがるけれど、研究の場合たいてい被験者は「良くなった」というんです。なぜだか分かりますか?

――えっと、プラシーボ効果でしょうか?

平松:その通り、プラシーボ効果です。偽の薬を、薬と思い込んで飲むと何らかの改善が見られることが多い現象ですね。プラシーボなのか、本当に効果があるのか分からないものではなく、エビデンスのあるものだけを採用したかったんです。ガボールの論文も大規模で完全な論文ではないのですが、それでも今までの特に科学的検証がない物よりはよいと考えました。

――平松さんは「ガボールパッチ」を海外の論文から発見されていますが、欧米では広く使われているということでしょうか?

平松:欧米でも広くというわけではないです。一方どうしてもこういう視力回復のものは価格が高くなってしまうという事がありました。
でも、実は視力回復法の世界はそういうものが多いんです。目が良くなるための機械なども売られていますけれど、だいたい高値ですよね。だから、エビデンスがあり、安価で提供でき、なおかつ確実性の高いもので提供できる何かをずっと探し続けてきたところはあります。

(後編に続く)

1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ

1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ

アメリカでも話題! ゲーム感覚でできる視力回復トレーニング法。

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