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新刊JPトップ > 特集 > 新刊JP 大塚寿 『バイトでも億稼ぐ 不況なのに元気のいい会社 』

バイトでも億稼ぐ 不況なのに元気のいい会社

書籍情報

立ち読み

はじめに

早いもので、私が社会に出てから実に四半世紀が過ぎようとしている。 この二五年間には円高不況、バブル経済、バブル経済の崩壊、失われた一〇年、ITバブル、ITバブルの崩壊、 そしてその後の戦後最長の景気拡大期があって、現在は「百年に一度」の世界同時不況の渦中にある。

その好不況の繰り返しの中にあって日本は成長期から成熟期に差し掛かり、 企業の力もずいぶんと低下してしまったように思える。同時に企業とそこで働く者たちの関係も変わってきた。[ そして最近では書籍や雑誌、ネット上でも職場の問題を取り上げたタイトルや見出しが目立ってきている。

「シュガー社員が会社を溶かす」
「上司泣かせのゆとり世代から会社を守れ」
「ブラック企業の闇やみ」
「社員同士が協力できない不機嫌な職場」
「正規雇用vs.非正規雇用」
「昭和社員vs.平成社員」
「社員の一軍、二軍化」
「ワーキングプア」

なんかネガティブなタイトルばかりが躍っている。 いつの間に私たち日本の職場は、こんなにもささくれ立ってしまったのだろう。 ただでさえマゾ気質の日本人が、この不況、不況の大合唱の中で、本当に自信まで失ってしまうのではないかと心配でしかたない。

コツコツと勤勉に働き、ものづくりに異常なまでの執念と工夫を持って臨んだ結果が世界第二位のGNPであり、 一五〇〇兆円を超えるといわれる個人資産である。 こんな輝かしい足跡がありながら、 なぜ、私たち日本人は病的に未来に不安を感じるのだろうか。 もしかしたら、国家レベルの強迫神経症に陥っているのではないだろうか。

そこで、その強迫神経症への特効薬として、本書を企画した。 「百年に一度の大不況」という大合唱の中にあって、過去最高益、 十数年連続増収増益を続ける企業があるのはいったいどういうわけなのだろうか。 こんな不況の真まっ只ただ中なかにあっても元気な企業がある。 たとえば、バイトなのに責任感を持って、能動的に仕事に打ち込む職場もあれば、 食わんがために集まった心を閉ざした集団が、顧客の「ありがとう」という感謝の言葉に目覚めて、 顧客のために何ができるのかを考える燃える軍団へ変身した会社もある。

本書ではそのようなエピソードを八つ紹介している。 セブン─イレブン(以下、セブンイレブンと表記)、ディズニーランド、リクルート、 そして109のショップの店員たちがバイトであるにもかかわらず、一億円を超える業績をあげてしまう事例。

さらには斜陽といわれる酒販業界にあって年商を一六倍にのばしたカクヤス、 クリスマスにサンタの格好でプレゼントを配る年商三三億六千万円の松戸の新聞販売店、割烹(かつぽう)の味が するおでんで日本でもトップクラスの売上げを誇るローソン尾山台駅北店、日本で初めて金融工学のシステムを 開発した新日鉄のエピソードを紹介していく。

本文ではこれらの企業に共通する「三つのこと」に焦点を当て、「私たちがやりがいを持って仕事に取り組める」 方法を紹介するつもりだ。この薬はすべて日本の職場で培われたもので構成されるため、副作用の心配はない。

そしてこの薬の目的は、働く日本人に自信と誇りを取り戻してもらう自分づくり、職場づくりの実現、 そしてそのマネジメントの実現にある。 具体的には「やりがいを持って働くこと」に対して、 自分なりにフィット感、納得感のある答えを見つけ出してほしいと願っている。 それを仕事観、職場づくり、あるいはマネジメントに活かしていく中で、プラスの兆きざしが現れればしめたものだ。

「どうしたら、私たちはやりがいを持って仕事に取り組めるのか?」 その答えというより、その答えにたどり着く試行錯誤、思考プロセスにこそ、価値が介在しているように思えてならない。 根本思想として、そこに考えが及んでいないことが職場をギスギスさせる大原因ではないかと、私は睨(にら)んでいる。

したがって、その思考プロセスの追体験ができるように、八つの職場のエピソードをまとめた。 それらに共通する具体的な芯は「自分で発見し→工夫し→小さな手ごたえを得る中で効力感が生み出される」という事実である。

「効力感」というのは無力感の対義語で、自分の仕事が何かに貢献できた、誰かに喜ばれたということを実感することである。 少々マネジメント本ぽく硬く表現するなら、自分で仮説→実行→検証のサイクルが回せる面白さ、 PDCA(Plan─Do─Check─Act)を自己完結できる仕組みが職場を活性化し、人材を成長させる、ということになる。

難しい話はさておき、とにかくみんなが元気になってくれればそれでいい。 もちろん会社の将来や日々の生活への不安の中で元気を出せといっても、それはできぬ相談に違いない。 ただ不安の中で悶々(もんもん)とした生活を送ることにはピリオドを打とう。行動を起こせば何かが変わる。 政治のせいにするのではなく、誰かが何か与えてくれるのを待つのではなく、能動的に考え、動き、 プラスの兆しを自ら発見し、小さな手ごたえを感じる毎日にしようではないか。 一人でも多くの読者がその先にある果実を手にすることを願ってやまない。

二〇〇九年九月    大塚 寿