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バイトでも億稼ぐ 不況なのに元気のいい会社

書籍情報

立ち読み

第1章
セブンイレブンのバイトは、なぜ3カ月で経営を語るようになるのか?

セブンイレブンに、数多くの「仮説」が存在する理由
   創業以来三〇年以上も増収増益

この史上空前といわれる不況の直撃を受け、ほとんどの小売業が苦戦する中、 なんとセブンイレブンは二〇〇九年二月の決算でも二兆七六二五億円の売上、一八八〇億円の経常利益をたたき出している。

もちろん増収増益で経常利益にいたっては前期から一一五億円も増やしている。小売業でこ の業績はダントツ一位であるどころか異常な数字といっても過言ではない。ちなみに業界二位 のローソンは同期で売上一兆五五八七億円、経常利益四八七億円となっている。つまりセブン イレブンはローソンの四倍近い経常利益を上げているのである。

そんな中で、〇九年一月に「セブンイレブンのバイトは三カ月で経営を語る」という話がインターネットなどで話題になった。私は、このエピソードに引きつけられた。「はじめに」で も述べたが、この自信を失った日本の企業にあって働く人間たちが「やりがい」を見失ってい る中で、「バイトが経営を語る」というのはどういうことだろうか。

一般の企業であれば、考えられない話である。それがセブンイレブンでは、高校生や大学生 のバイトが経営に参加し、利益構造におおいに貢献しているというのだから、驚くべき話であ る。バイトまでが、自分の仕事に生きがいを感じて働いているというのだ。

この「セブンイレブンのバイトは三カ月で経営を語る」という話は、経済誌『プレジデント』にセブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長の鈴木敏文氏が語ったものである。しかし、そのインタビュー記事には、そのエピソードは出てくるものの、なぜバイトが三カ月で経営を語るようになるのかについて、深い説明はなかった。

そこで私は、さまざまな取材や観察を通して、その理由を明らかにしてみたいと思った。そこに「どうしたら、私たちはやりがいを持って仕事に取り組めるのか?」の答えを見出せるのではないかと考えるからだ。

私の手帳には、仕事がらさまざまの企業や業界のデータやエピソードが書き込まれている。参考までに、取材や雑誌、新聞、書籍でメモしたセブンイレブンのデータやエピソードを紹介すると、こんな感じだ。

①気温が二五度を超えるとアイスが売れる

「夏」に関係なく、気温が二五度を超えたところでアイスクリームが売れはじめるが、三〇度を超えるとかき氷にシフトする。地域によっては二八度以上でかき氷にシフトするケースもある。

②蒸し暑い日には、ざる蕎麦(そば)と冷やし中華が売れる

気候がジメジメとして、人が蒸し暑さを感じるとき(たとえば、気温二七度以上で湿度五五パーセント以上とか不快指数七五を超えるときなど)ざる蕎麦と冷やし中華が売れはじめる。 ジメジメした日は喉(のど)ごしのいい冷たい麺(めん)が売れるというのはわかりやすいが、むしろ二月の 小春日和(たとえば、気温が平年比四度高くなると)に、冷やし中華の売上げが三倍になる、という現象もある。

③雨の日、おにぎりは二割減

 そもそも雨というだけで、お客さまの出足は鈍る。おにぎりの売上げは二割落ちるだけでなく、その中味も変わる。体感温度が下がるため、あっさり系の「梅おにぎり」が動かなくなり、逆にこってり系の「焼つくねおにぎり」「とり五目おにぎり」などが動きはじめる。

④プール開き前には「除毛クリーム」が売れる

 地域の小学校、中学校、高校のプール開き直前には除毛クリームが売れる。ドラッグストアではこのタイミングでフェース(商品の面だし)を増やすが、ターゲットが大人の女性ならばファッション誌から背中の大きく開いたグラビアを切り抜いて、POPに使うと着火する。

⑤おでんがいちばん売れるのは一二月ではなく、九月~一一月

「これってキャンペーン価格だからじゃないの?」と邪推したくなるが、体感温度が急激に低下する九月~一一月の秋口に一番売れる。 ちなみに個別ランキングは、一位大根、二位玉子、三位シラタキ。売れる時間も、山谷があるものの午後八時以降にピークがくる。  逆に一二月に入ると売上げは鈍り、正月明けには激減する。

⑥台風が接近すると牛乳が売れる

補充品の代表選手が牛乳。週末のスーパーでのまとめ買いでは一週間もたない。さらに気温 が上がるとなおさら消費に拍車がかかるが、消費者は特売があればスーパーで買う。値段が変わらなければ、どちらでもよいと考える。 が、台風が接近すると買い置きのため、遠くのスーパーより近いコンビニで牛乳を補充買いする。

⑦オフィス街でサラダは朝と昼にピークがくる

 サラダはOLのサイドメニューの定番だが、実はランチタイムほどではないにせよ、朝にも動く傾向がある。これは朝食代わりに職場でサラダを食べる人が、少なからずいることを証明しているように見えるが、実際には昼食時の混雑をさけて、ランチを朝に買う人が多かったりする。いずれにしても、夕方に大量に納品しておけば、翌朝、これらの需要機会を取り込むことができる。

⑧東北では瓶(びん)ビールが売れる

東京以西で考えるとコンビニのビールは缶ビールばかりと思いがちだが、東北地方の一部で は瓶ビールが置かれる例がある。秋の芋煮会シーズンには缶ビールでの展開より、あえて瓶ビ ールを置くほうが売上げが伸びるのだ。  どうしたって、芋煮会の注(さ)しつ注されつの席では缶ビールでは雰囲気が出ない。やはり、相 手に注ぐことを考えると、まだまだ日本人には瓶ビールのほうが使い勝手がいいのだ。

⑨海岸に近い店では「梅おにぎり」が売れる

鈴木会長が好んでされる話なので、多くの書籍や雑誌で紹介されているが、海岸に近い店で は、「梅おにぎり」がいちばん売れる。 海岸に近い店というのは、釣り船の発着所に近い店という意味で、早朝から集まった釣り客が昼食用におにぎりを選ぶ際に、日中の気温の上昇によっておにぎりが傷むのを懸念し、もっとも傷みにくい梅おにぎりを好んで買う。だから天気のいい休日には、大量に発注すると売るチャンスを逃さないという典型的な事例といえよう。

⑩ゴールデンウィークにはフルーツゼリーが売れる

 住宅街立地の店では、ゴールデンウィーク中は客足が落ちるため、通常と比較してかなり控えめな発注とならざるをえない。ところが、中にはゴールデンウィークに売上げが増加する妙な商品が存在する。連休くらい家でゆっくり休みたいと一人残ったお父さんが、食事を自分で作るとは考えにくいし、やはり食事はコンビニで買うケースが多くなる。そういったお父さんは何を買うだろうか。弁当かそれともおにぎりか。

 実はそんなときに人気なのは、ラーメンとカレーなのである。「人気ラーメン店シリーズの 食べ比べ」、「レトルトカレーの食べ比べ」といった売場づくりをするとさらに訴求力が強まる。

一方、高齢者層は混み合うゴールデンウィークに外出せずに家に留まることが少なくない。 そんな中高年層に人気なのが、フルーツゼリーなのだ。ふだんは本物のフルーツを食べていて も、家族が外出とあれば、食べきれないから少しでいい。そんなちょっとだけ果物が食べたい 人にはフリーツゼリーがうってつけなのだ