⑪アイスは見えなくなると売れない
ゴンドラ式アイス売場の売れ筋商品は、どんどん窪(くぼ)んでいくために徐々に見えにくくなる。 しまいには隣のアイスが崩れてきて、いよいよお客さまの視界に入らなくなって売れなくなってしまう。補充することはもちろんだが、補充品が不足しているときには、他商品を下に置いたりして下駄(げた)を履かせ、ほかの商品と高さを揃そろえて、お客さまに常に見えるようにしておくことが肝心である。
⑫女性ファッション誌はコンビニでは売れない
『CanCam』『VERY』『25ans』などに代表される女性ファッション誌はコンビニでは売れない。女性読者がどこで買っているかといえば、最寄りの書店で買い、紙袋に入れてもらって持ち帰る。それらの本をコンビニのプラスチック袋に入れられるのを嫌うという説が一般的だが、立読みされたかもしれない本を敬遠するという説もある。
⑬週刊誌は三日経つと売れない
週刊誌は固定読者が多いために、発売日にもっとも売れ、次は翌日。三日目からは動きが止まり、四日目にはほとんど売れなくなる。さらに男性客は立読みに慣れているので、週刊誌を読んでいる人は買っている人よりもはるかに多い。 また、電車の中刷り広告を見て週刊誌を買う人は、朝の上り電車より帰宅時の下り電車のほうが多い。
ちなみに、昨今指摘される出版不況は、本や雑誌を読まない人が増えているというより、立読みで済ます人が増えているという解釈もある。
⑭インスタントラーメン首位の「サッポロ一番」より、カップラーメン首位の「カップヌードル」が売れる
22袋麺の首位は言わずと知れたサッポロ一番だが、コンビニではカップラーメン首位のカップヌードルのほうが売れる。コンビニの品揃えは「10分内消費品」と言われて久しいが、さらに調理不要、鍋、どんぶりの後片付け不要のカップラーメンが好まれる。「サッポロ一番ならスーパーで買う」という消費者の意識も強いと思われる。
さらにはどんぶり型よりカップ型が売れる不可思議。かやくやスープを入れる手間がかからない、 お湯を注ぐだけのカップヌードルがいちばんよく売れるのである。 ラーメンに関して全国的には以上のような傾向があるが、この程度だと鈴木会長に叱(しか)られそうなので、 もう少々個店レベルの特性について触れておきたい。細かく表現すると、 「オフィス・繁華街立地」と「住宅立地」で事情はまるで異なり、前者では鍋のいる「サッポロ一番」は売れないが、 後者であればよく売れたりすることをつけ加えておく。
⑮景気が悪くなると「もう一品」商品が売れない
不景気になると、オフィス街ではサイドメニュー類、デザート類の動きが鈍くなり、住宅街ではおでんの売上げが半減し、ロードサイドではタクシードライバーが買っていたおしんこ類が動かなくなる。
仮説が「機会ロス」を減らす
これらは私たちにとっては、聞いておもしろいunn(うんちく)のようなエピソードではあるが、セブンイレブンにとっては個別発注の出発点となる重要な「仮説」として存在しているのである。 鈴木会長のすごさは、「これらの仮説通りに個別発注をやりなさいよ」というメッセージではなく、逆に「こんな過去の仮説には意味がないので、現場で自分の頭や直感を駆使して、新しい仮説を生み出しなさいよ」と繰り返していることだ。
すなわち、セブンイレブンの現場では、過去の「仮説」を検証し、さらに次の新しい「仮説」を生み出すという作業が絶え間なく続いてきているのである。たとえば、「今日はバカにヨーグルトが売れてるなぁ」と商品の補充の最中に気づいた、二〇歳のバイトの大学生は、その要因に頭を巡らせることになるのだ。いつもと違う現象をあれこれと考え、そういえば、いま風邪とインフルエンザが流行(はや)っているな、何組かマスクをした子どもを連れた親子も来店していたなぁ、なんて気づくのである。
「なるほど風邪やインフルエンザが流行ると高熱で食欲もなくなるから、喉ごしがよくて、栄養価の高いヨーグルトが売れるんだな」と、その流行のピークから収束までヨーグルトの発注量を増やすことになる。
これが、いわゆる消費の機会を発見する「仮説」というものだ。風邪、インフルエンザが流行って、ヨーグルトがたくさん売れる機会があるので、通常通りの発注では早々に売り切れてしまう。店としては売り切ったのだからよかったろうに、それではセブンイレブンの言う「機会ロス」となる。売り切れた後に来店したお客さまは売り切れでは買えないというわけだ。 したがって、お客さまの行動を予測して、その上で単品管理を行って発注をかけろ、というのが業界トップの日商を実現するキーファクターになっているのである。
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