だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『惑う星』リチャード・パワーズ著

提供: 本が好き!

ロビンは9歳の男の子で、地球外生命体の探索を研究している科学者の父親と二人暮らしです。母親は動物の保護活動に熱心に取り組んでいたのですが、自動車事故で亡くなっていました。
ロビンは障碍を持って生まれていたのです。医師によって診断は様々。スペクトラム症候群だ等々。しかし、父親も母親も投薬治療などは拒んでいたのです。

ロビンは聡明な男の子なのですが、時として感情が爆発し、突然叫び出し、あるいは暴力的な行動に出てしまいます。時には学校の友だちに怪我をさせたりもし、学校は表面的にはロビン保護のためと言いながら、実はロビンを持て余し気味なのです(今度問題を起こしたら医療措置を受けてもらうか、福祉に通報する等々)。

この作中にところどころ出てくるのですが、アメリカって児童虐待に手厚いイメージがあるものの、それはかなり押しつけがましかったり実は情のないことを平気でやる国かもしれないと感じてしまいます。ロビンが自由にしたいと主張することから好きにさせてやると(無理に止めると爆発してしまいます)、すぐに周囲から「父親が子供を虐待している」と通報され、公的機関が介入してくるのです。それは表面だけ保護しているだけじゃないのか? 保護した後のケアは本当にそれで良いのか?

とにかく障碍を持った子供を男手一つで育てるのはとんでもなく大変なことです。父親は自分の仕事に支障も出てくるのですが、そんなことは構わず、大変辛抱強くロビンと向き合おうとするのです。
物語の大半は、こんな父親とロビンとの関りを描いていきます。

ある時、学校から厳しい措置を言い渡された父親は、切羽詰まって知人の研究者に相談します。その研究者は『デクネフ』と呼ばれるコード解読神経フィードバックの研究をしており、実は父も母もその実験的被験者として協力したことがあったのです。まだ未完成の技術なのですが、あるいは精神的な障碍を抱える人の治療に役立つかもしれないものでした。

知人は、効果があるとは断言できないがロビンを被験者にしてやってみても良いと言ってくれます。父親がロビンに話してみたところ、受けても良いと……。
こうしてロビンは治療も兼ねた被験者となるのですが、これが目覚ましい効果を上げたのです。ロビンの暴力性は影を潜め、その洞察力などは向上していったのです。

実験的治療研究は次のステップに移行し、知人から、ロビンに母親のデータを基にした誘導をかけてみないか? と提案されます。両親が被験者になった時のデータが保存してあるというのです。これもロビンに相談したところ、母親に恋焦がれていたロビンは一も二もなくやりたい! と言いました。

そうしてやってみたところ……。
徐々にロビンに母親の影が現れるような……。
以前から生き物が好きだったロビンなのですが、まるで母親が乗り移ったかのように動物保護により熱心になっていくのです。
これはどういうことなんだ?

しかし、良い時もそこまででした。
またまた政府が知人の研究に介入してくるのです。被験者を虐待している疑いがあると。
これ以上のロビンの実験的治療を続けることができなくなってしまうのです。

とまあ、こんな展開なのですが、読んでいてお分かりの通り(そして作中でも出てくるのですが)、私は即座に『アルジャーノンに花束を』を連想してしまいました。
あれほどウェットな描き方はしておらず、むしろ大部分は父親とロビンの二人だけの世界が描かれて行く作品なのですが、モチーフの一つになっていることは間違いないでしょう。

父親とロビンは、もしかしたら生命体がいるかもしれない宇宙の星々に思いを馳せ、あるいは二人だけでキャンプに出かけ、自然や動植物と親しむのです。そこに通い合う二人の感情を淡々と綴っている部分が多くを占める作品になっています。

作中には、トランプ前大統領? グレタ? と思われるような人物まで登場させてくるのですが(ここまで書くかなぁ、やや露骨じゃないか? と個人的には思いました)、最初はやや沈滞気味か? と思われたものの徐々に魅かれていく作品だったように思います。
なるほど、と、パワーズの力量を再認識させられました。

(レビュー:ef

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本が好き!
惑う星

惑う星

地球を憂う少年の心を、亡き母の愛が解き放つ。科学と情感が融合する傑作。
パパ、この惑星に僕の居場所はないの? 

地球外生命の可能性を探る研究者の男、その幼い息子は絶滅に瀕する動物たちの悲惨に寄り添い苦しんでいた。男は彼をある実験に参加させる。MRIの中で亡き母の面影に出会った少年は、驚くほどの聡明さを発揮し始め――現代科学の最前線から描かれる、21世紀の「アルジャーノン」。

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