だれかに話したくなる本の話

「嫌われ松子」作者の新刊は傑作エンタメ

出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第61回の今回は、8月27日に新刊『ギフテッド』(幻冬舎/刊)を刊行した山田宗樹さんです。
 『百年法』『嫌われ松子の一生』など、印象的な作品を次々と世に出している山田さんですが、この『ギフテッド』もこれまでの作品以上に、私たちを引きつけてやまない極上のエンタメ長編。新たに発見された「未知の臓器」の謎と、その臓器を持つ子ども達<ギフテッド>の運命が、現在と過去を往復する物語の中で少しずつ明らかになっていきます。
 この大作がどのように生まれ、育っていったのか。
 『ギフテッド』誕生の秘密を山田さんに伺いました。

■10年以上前の新聞記事がヒントになった新刊『ギフテッド』
―山田さんの新刊『ギフテッド』についてお話を伺えればとおもいます。山田さんといえば、日本推理作家協会賞を受賞した『百年法』のように、ある特殊な状況のなかで人間がどのような行動をとるのかを書くのが得意だという印象があります。『ギフテッド』もそんな作品だと言えますが、この作品の最初のアイデアはどんなものだったのでしょうか。


山田:もう10年以上前のことなのですが、ある新聞でがんについての特集記事を読んだのがきっかけです。がんというのは確かに怖い病気ではあるのですが、その記事には、人類という種全体を見た時に、もしかしたらがんが元になって新しい未知の臓器につながる可能性があるというようなことが書いてありました。
それを見て「未知の臓器」という言葉に引っかかるものがあったんです。興味深い考え方だと思いましたし、小説にしてみたいという気持ちにもなりました。
でも、当時はプロットを考えてみても、どうしても面白いストーリーができませんでした。それで、これは自分には書けないな、ということでいったんボツにしたんです。

―「未知の臓器」というだけでは、アイデアのかけらのようなものですからね。

山田:そうです。「未知の臓器」を持った子どもが発見されて、研究対象として追いかけ回されて、というような話しか思いつかなくて、これではダメだ、となった。
でも、さっき名前を挙げていただいた『百年法』のアイデアも、同じように一度ボツにしたネタなんです。それが、時間が経ったり様々な偶然が重なったことでああいう形で何とか書き上げることができました。それなら、こっちも何とかなるんじゃないか、あの時はダメだったけど今なら書けるかもしれないと思い直して、改めて着手したという流れです。

―ボツになったアイデアが生き返るということはよくあるんですか?

山田:そのアイデアを思いついた時はうまく形にできなくても、時間が経ったことでまた別の切り口が見つかるということもありますからね。そういうことがあれば、ボツになったアイデアをまた使うこともあります。

―『ギフテッド』について、「未知の臓器」を持つ主人公たちが「ある脅威を持った社会の異物」として存在するという状況で、人間のどんな性質を浮かび上がらせようとされたのでしょうか。

山田:基本的に、僕は人間が持っている何かの性質を書こうという気持ちで小説を書くわけではありません。
僕が小説を書く時に心していることは、いかに読者を引っ張っていくかというその一点だけです。そのうえで「社会の中の異物を排除しようとする人間の性質」を作中で扱うことで読者を引っ張ることができるならそうします。あくまで読者を楽しませることが第一です。小説のなかで自分の意見をアピールしようという気はありません。

―何かしらのメッセージが込められているわけはないんですね。

山田:そうですね。あるとすれば「一気読み」してほしいということくらいです。

―確かに、一気に読んでしまいました。エンターテインメント小説を書くうえで一番大切にしていることはどんなことですか?

山田:読者を飽きさせないことがとにかく大事なので、余計な文章や余計な言葉を使わないように心掛けています。この作品にしてもかなり長いですから、途中で読者を疲れさせてしまうことは極力避けたいわけです。だから省ける展開は省いて、無駄な言葉も削ります。
でもそれを書くことでより深く物語に入り込めると思ったのなら、それは書きます。そうやって捨てたり拾ったりしながら物語をできるだけタイトに前に進めようと思っています。

第2回「3、4日放っておくとアイデアが降ってくる?」につづく