だれかに話したくなる本の話

普通の女の子はどのようにしてAV女優になるのか?

現役でも、たとえ「元」の肩書きが付いたりしていても、AV女優には「なぜ、AV女優になったのか?」と質問がなされることがしばしばあります。 世間は、雑誌やTVで交わされるそれらのインタビューに強い好奇心をもって聞き入り、時にはスキャンダラスな、時には当たり障りのない内容を、溌剌と答える彼女たちの態度に安心します。 様々な場所で見られるようになった「AV女優の動機語り」。なぜ私たちは彼女らの言葉に耳を傾け、彼女らは饒舌に語り続けるのでしょうか?

『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』(鈴木涼美/著、青土社/刊)は、そんなAV女優の「語り」について論じた一冊です。 著者は、AVプロダクションの事務所で生活や仕事の現場に雑用業務などを通じて実際に参加しながら、AV女優やプロデューサー、各スタッフなどと話を聞いたり見たりするという研究手法をとりました。 本書では、AV女優を「自らの性を商品化する理由を常に問いかけられてきた」存在と規定し、AV女優が生きる世界について詳しい考察を行っています。

普通の女の子がAV女優になるまで

AVに出演する女の子たちの動機は、個人的でありふれたものです。高額な収入、純粋な興味、友だちに誘われて何となく・・・。様々な動機から女優になることを決めた彼女らがはじめに訪れるのが「プロダクション」の事務所です。 彼女たちが最も密に、活動開始から引退まで接触し続けるのが、プロダクションです。マネジメント業務を担当する組織で、撮影現場への同行やギャランティの受け渡しなど、女優活動の責任の一切を負っています。 面接時にプロダクションから登録を拒否される女性は、未成年などを除き、あまりいないといいます。面接ではプロフィールを登録し、多くの場合、芸名をそこで作ることになります。そして、面接が終了すると宣伝材料のための写真撮影の日時が決められ、ここで撮影された宣材写真をもとにメーカーへの売込みが行われます。基本的に仕事はプロダクションによって自動的に判断・実行されるため、女優自らの意思で引退することを決めるまで、スケジュールの決定権は持たない立場にあり、プロダクションに所属したその日から引退を表明する日まで、「AV女優」となります。

面接の中で獲得される「語り」

とはいえ、自動的に仕事が継続されるといっても、作品への出演の際に能動的に売り込みをしなければいけない場面があります。それが幾度も行われる面接です。
彼女らは、プロダクションに所属する際の面接に始まり、作品を製作するメーカーとの面接、ビデオへの出演が決まった後には監督との面接…というように、デビュー前からデビュー後まで、いくつもの面接を経なければなりません。 ある時は1回の出演料が比較的高い単体女優としてデビューするために、ある時は自分の挑戦したくないプレイを作品内容から削除してもらうために、逐一面接に挑むのです。 プロダクションやメーカーは1日に何人もの女優と面接をするため、その中で勝ち抜くためにAV女優は面接を盛り上げ、彼らの記憶に留まるように、興味深いエピソードや性的嗜好についての語りを準備します。持ちネタをいくつも考え、面接で「富士山の頂上でセックスをした」などという作り話を披露するAV女優もいるそうで、そういった印象付けが、結果的に単体契約や仕事依頼に結びつくといいます。 その繰り返しが、いきいきと自分について語るAV女優の姿が徐々に形成されていくのです。 また、様々な場で繰り返される動機語りが、いつしか戦略性を離れて、一般的には「避けたい職業」とされるAV出演に携わる彼女たちの勤労倫理にすり替わっていくこともあると著者は指摘しています。

本書では、業界の仕事の流れや、面接で獲得される「語り」について、詳しい記述と考察がなされています。「性の商品化」はAV女優やその視聴者だけでなく、全ての人々が一度は考えなければいけない問題であるからこそ、本書の示す考察はとても価値があるものであるはずです。

写真著作:「しゃれこーべ」

「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか

「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか

衝撃的です・・・。

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