だれかに話したくなる本の話

小説家が語る創作法「無理に先を書く」のではなく「○○」

出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第77回となる今回のゲストは、昨年12月に新刊『薄情』(新潮社/刊)を刊行した絲山秋子さんです。
 『薄情』の舞台となっているのは群馬県高崎市。その地での暮らしぶりや季節の移り変わりが丹念に描かれていくなかで、地方都市に暮らす人ならではの葛藤が浮き彫りになっていきます。「暮らし続ける人」、「戻ってきた人」、「移住してきた人」、同じ場所で暮らしながらそれぞれ異なった背景を持つ登場人物たちの出会いと再会の後に起きた出来事とは?
 この作品の成り立ちについて、絲山さんにたっぷり語っていただきました。

■「無理に先を書こうとしてもうまくいかない。でも、待っていると 『今だ!』という瞬間がやってくる」
――ここからは読者の方々から寄せられた質問をさせていただきます。
「小説というアウトプットをするには、かなりの量のインプットが必要なのではないかと思います。絲山さんがどんなものから情報を得ているのか教えていただきたいです。」(20代男性)こちらはいかがですか?


絲山:この小説に関していえば、「人」です。群馬の情報を得るために地元紙や地元メディアを見るのは当然として、たとえば町内会の会合で聞いたことや、あちらにいる友達に教えてもらったことが小説を書くうえでヒントになったことが何度もありました。
地方都市の特徴として、学歴とか職歴による棲み分けがないというのがあると思います。東京だと「この飲み屋さんの客は銀行員が多い」とか「マスコミ関係者がよく来る店」というような棲み分けがありますが、地方都市にはそういうものがなくて、たとえば群馬交響楽団の人も電気工事の作業員の人も皆が同じ目線で話します。だから本当にいろいろな職業、背景を持った人と知り合うことができますし、そういうところから得た情報はすごく貴重だと思っています。
この間、バスの運転手をしている人に「一番怖いものは何か」と聞いたら「鹿だよ」って言っていました。オスの鹿はかなり大きいですし、道路脇から飛び出してくるから本当に危ないんです。こういうことって本を読んでも書いていないことじゃないですか。雑談とかよもやま話からはすごくいい情報を仕入れられます。

――「自分の書いた文章を客観的に見ることができません。推敲のポイントなどがあれば教えていただきたいです。」(20代女性)という質問も来ています。

絲山:これはプリントアウトですね。パソコンのモニタで読むと客観的になりにくいですし、文字も見づらいので、私もゲラを読む時はプリントアウトしたものに手書き赤を入れています。
それと、書き終わったらその内容を一度忘れることも大事なので、一日でも二日でもいいので、書いた文章のことを積極的に忘れるように心がけてみるといいと思います。読み返した時に他人の文章を読んでいるような感覚になるのが理想ですね。

――ちなみに、ゲラにはたくさん手を入れるタイプですか?

絲山:ものすごく手を入れるタイプです。初稿もそうですし、単行本になる時もかなり直します。「宇田川は車を運転したい」と「車を宇田川は運転したい」のように、言葉の順番が違うだけで読んだ印象が全く変わってしまうので、ものすごく注意していますし、いじくり回します。こういうことも、書いた後に一度忘れるようにしているからできるんです。

――『薄情』のような長編小説だと、単行本にする時のゲラの修正にはどれくらい時間がかかるものなんですか?

絲山:だいたい3日から4日くらいで、そこで集中して直します。割と集中力はある方だと思うのですが持続力があまりないので、だらだらやらないようにしています。
これは書く時もそうで、連載小説にしても毎日少しずつ書いていくとか、先の計画を立てながら書いていくというのではなくて、書けるようになるまでひたすら待つ。

――「待つ」とは?

絲山:無理に先を書こうとしてもうまくいかないんです。でも、待っていると「今だ!」という瞬間がやってきますから、その時に書いています。
これは恋みたいなもので、「あの人が気になるなあ」というところから「あの人が好きだ!」になるまで時間がかかるじゃないですか。小説も同じで、何を書くかがぼんやり頭にあるだけでモヤモヤしている状態から、「今だ!書こう!」に変わるまでは時間がかかるんです。それを待つということですね。

――「友人が大病を患い、手術を控えています。絲山さんなら、どんな言葉をかけますか。」(40代女性)こちらについてはいかがでしょうか。

絲山:これは言葉ではないと思います。私ならお見舞いに行った時とか、入院の前最後に会う時に握手をするか、同性の友達ならハグして、手術が終わったら「がんばったね!」とまた両手で手を取って握ると思います。
40代の女性の方ということですが、女性から握手を求められたらまず拒まれないですよ。女性同士ならもちろんですし、相手が男性でも握手なら嫌がる人はいないはずです。だからどんどん握手をした方がいいと色んな友達に言っているんです。絶対その方が言葉より思いが伝わりますから。

第三回 絲山作品は「あらすじを追わない」方が楽しく読める?

この記事のライター

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山田洋介

1983年生まれのライター・編集者。使用言語は英・西・亜。インタビューを多く手掛ける。得意ジャンルは海外文学、中東情勢、郵政史、諜報史、野球、料理、洗濯、トイレ掃除、ゴミ出し。

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