だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』藤井青銅著

提供: 本が好き!

この本では、日本全国各地のお土産物のパイが、これを全部ひとりで集めたなんてどうかしてると思うくらい大量に紹介されている。

著者は作家・エッセイスト・脚本家の藤井青銅氏。なんとこの本に掲載されているパイは、著者が数年にわたり自腹で購入・収集したものであると、もくじのページに小さく注釈が入れられている。そこもっと大々的に主張していいんじゃないの!?そんなことしてるの日本でたぶんアナタだけですよ!!と思うのだが、実に控え目。

さらに編集もさりげに、西原理恵子さんの「できるかな」に登場しまくっていじられたおされていた新保信長氏。奇をてらった企画モノかと思いきや、なにげにスゴい本だ。

冒頭で"たいていの観光地には「~パイ」というお菓子が存在する。"と述べられ、ご当地パイ=ゆるパイについて簡単に講釈されている。

パイには饅頭、煎餅といった伝統菓子と違い「こうあらねばならない」というルールがないためにいろいろな地元食材と気軽にコラボする、そのコンセプトの「ゆるさ」が、お菓子の魅力となっていると著者は説く。なるほど一理ある、というか、パイについてわざわざそんなに深く分析したことなかったな…。

さらに、ご当地パイといえばこれ!元祖ゆるパイ「浜名湖名産・夜のお菓子うなぎパイ」の工場にも潜入。うなぎパイの生地を折り重ねて伸ばして層をつくる工程は職人さんが手作業で行っているとか、うなぎパイに頭と尻尾があるとか、うなぎパイのこだわりを知ることができる。

このうなぎパイの存在のせいか、魚介系のゆるパイは多いようだ。うなぎパイ工場の記事の後から、全国津々浦々の様々なパイを「魚介系」「フルーツ系」「肉系」「野菜系」「郷土料理&菓子系」「素材&調味料系」「観光名所系」に分類して紹介。その中でも魚介系が圧倒的に多いのだ。

うなぎパイがあるなら勿論、焼あなごパイも存在する。さらに淡路島はもパイ、さんまパイ、どじょうパイ、伊勢海老パイ、白えび便りパイ、かにパイ、ふくパイ、まだまだあるが続きは本書をチェックしてみてください。さんまパイなどはなかなか再現度が高いようで、"ダイコンおろしも欲しい!"とは著者の弁。

そう、著者はすべてのパイをちゃんと食べているのだ。名古屋地どりコーチンパイとか宇都宮餃子パイとか食べるのになかなか勇気のいりそうなものもあるのだが、しっかり味の解説も添えられている。ちなみに名古屋地どりコーチンパイは鶏卵の味が濃く、宇都宮餃子パイはかなりガーリックが効いているようだ。

そしてパッケージの文言や原材料の表まで細かくチェック。ビシバシとツッコミを入れていく。パイのパッケージというのがなかなかツッコミどころ満載で、説明文が英文ではなく何故か日本語の文を全部ローマ字で書いてあるだけのものだったり、やたら長かったり素朴だったり、コピーが時事ネタで思いついた時期がバレバレだったり。それらをきっちり拾っていく著者のツッコミ力が素晴らしい。

全国にこんなにたくさんの個性的なパイがあることの面白さと、それに着目して収集してツッコむ著者の視点のユニークさを楽しめた。

グルメ本のように「うまそ~!食いたい!」とはあまりならないけれど、それとは違う視点で地方のお土産物やさんを覗きたくなった。次に旅行に行ける機会があったら、職場へのお土産は絶対ゆるパイにしよう。しかもウケ狙いで魚介系か肉系で!

(レビュー:ちょわ

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』

ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち

名物あるところ「ゆるパイ」あり! 静岡のうなぎパイ、秋田のきりたんぽパイ、滋賀のふなずしパイ、沖縄の島唐辛子パイなど、全国各地のご当地パイを、写真とともに解説する。

この記事のライター

本が好き!

本が好き!

本が好き!は、無料登録で書評を投稿したり、本についてコメントを言い合って盛り上がれるコミュニティです。
本のプレゼントも実施中。あなたも本好き仲間に加わりませんか?

無料登録はこちら→http://www.honzuki.jp/user/user_entry/add.html

このライターの他の記事