だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』澤宮優著

提供: 本が好き!

著者が昭和の仕事に興味を持ったのは、放浪の詩人と呼ばれた高木譲の影響だそうです。九州一円を放浪しながら、約百二十もの仕事に就いた高木譲の仕事遍歴を追って、その時代に生きた人々の哀しみを感じたのだとか。

高木譲の仕事を軸にしたのが前著『昭和の仕事』でした。こちらでは働く人たちの人生を描いたのに対し、姉妹版となる本書は仕事そのものに重きを置いて書かれています。わかりやすいイラストが理解を助けてくれます。

「押し屋」

国鉄の本を読んだばかりなので目に留まりました。ラッシュ時に乗客の背中を押して車中に詰め込む作業員。学生アルバイトとして行われていました。乗客が車内に入ったことを確認して車掌に知らせるまでが彼らの仕事。

なお、これは日本独特のもので「プッシュマン」という名前を当てがわれ、海外の新聞で紹介されたこともあるのだとか。押して駄目なら引くしかないということで、ドアの外に乗客を引き摺り出す仕事もあったそうです。

これらの作業を「はがし屋」と言うが、押し屋と兼業で行った。

昭和を感じさせる仕事がてんこ盛り。本読みとして見逃せないのが「文選工」でした。活版印刷の工程のひとつ。活字棚から原稿通りに鉛でできた活字を一字ずつ拾って文選箱に詰める、熟練した職人技が求められる仕事。

なお、著名な作家の癖のある難解な文字を読みこなすことができ、作家専属の文選工になる一流もいたのだそうです。熟練の技は鋳植機(こんな機械があるのですね)の登場や写真植字などに押されて衰退していきました。

「天皇陛下の写真売り」

いやぁ~、これは驚きましたね。戦中までは現人神として神様扱いだった天皇の写真、その名も「御真影」は学校の泰安殿や家庭の床の間に飾られていました。民間業者が政府黙認の下で(爆)販売していたのだそうです。

一番多かった販売スタイルは全国各地の家庭を回って売り歩く行商でした。一般の行商と異なるのは「売る人がきちんと背広や着物を着ていた」こと。畏れ多くも天皇陛下の写真を売るので威厳が必要だったのだとか・・・

ちょいと夜の世界に足を踏み入れてみると、新興喫茶と呼ばれた「カフェー(カフェ=純喫茶ではありません)」や、いわゆる売春婦である「公娼(営業許可外は私娼)」や、占領軍相手の「パンパン」が目に付きました。

現在も行われている仕事の昭和の姿とその名称に興味を惹かれるものもありました。例えば「損料屋」と「口入屋(くにゅうや)」です。今日で言うところのレンタル業、そして民間の職業紹介業です。勉強になりました。

いやいや、これは面白かった。我が家に置いておきたい一冊です。イラストの価値が高いですね。それぞれの仕事を紹介するページと巻末に、参考文献が紹介されているのも素晴らしい計らい。これは当たりの一冊でした。

(レビュー:allblue300

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』

イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑

汗と知恵で激動の時代を生き抜いた人たちの記録!全115種。三助、屑屋、活動弁士、赤帽、バスガール、倒産屋…。今では姿を消した、懐かしい昭和の職業を仕事内容から収入額、労働時間まで網羅しすべてイラスト付きで紹介!

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