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「イケメンは人生で得をする」は本当なのか? 人生の決め手になる要因の正体

「格差社会」という言葉が広がってから、だいぶ経つ。所得や資産はもちろん、教育や仕事、さまざまな機会の格差は開く一方だ。

『遺伝か、能力か、環境か、努力か、運なのか: 人生は何で決まるのか』(橘木俊詔著、平凡社刊)は、そんな格差社会において人はどのような境遇にあれば成功するのか、あるいは成功しないのかを探求した一冊だ。

本書では、遺伝学、IQ、社会学、経済学などの研究や論文を取り上げ、人生の決め手になる要因を考察している。
結論から言ってしまえば、「遺伝」「能力」「環境」「努力」「運」のどれかひとつが揺るぎない決定的要因となっているわけではない。

だが、それぞれの要素は少なからず影響し合っている。その影響の関係を知れば、過度に悲観的になったり、ある意味で気持ちよく諦めがついたりする部分もあるだろう。

■「凡人」は何をしても「天才」にかなわないのか?

成功している人を見て、「生まれつき素質が違う」「育った環境が違う」と思ったことがある人は少なくないはず。
では、実際に、遺伝的に生まれ持った資質や育った環境は、学力や能力にどれくらい影響するのだろうか。

慶應義塾大学教授で行動遺伝学を専門とする安藤寿康氏の研究をもとに著者が解釈するところでは、数学の能力は生まれながらの素質で決まる確率が高く、環境や育て方、教育によって向上する確率は低いという。 一方、話し方や文章を書く能力は、生まれながらの素質よりも環境や教育によって向上する確率が高いそうだ。

だが、どれだけ先天的、潜在的な能力があっても「努力」がなければ、成長は望めないし、その能力を活かすことも難しくなる。

努力を支えるのは、忍耐力、自制心、計画性、向上心、意欲といった「非認知能力」と呼ばれるものだ。
こうした能力は「性格」に由来する面もあるが、その「性格」は、遺伝と環境とが半々の影響力を持つようだ。つまり、親から受け継いだ性格と、環境によって形成された性格が「努力できる能力」を左右すると言っていいだろう。

数学的能力のように生まれながらの素質で優劣が出てしまう可能性がある領域の能力は、ある程度、諦めることも必要かもしれないが、それ以外の領域なら努力できる能力を伸ばすことで、天才に近づく、あるいは超えることもできるかもしれない

■美男美女のほうが人生で得をする?

本書では数値化や検証が難しい「運」についても考察を試みている。
特に興味を引くのが、これまで学問的分析が避けられてきた容貌や顔の美醜に関する考察だ。

テキサス大学教授ダニエル・S・ハマーメッシュ氏の研究によれば、**「現代の大学では教授の容姿の美醜と授業評価に正の関係がある」**という。つまり先生の容姿が良いと、その先生は良い授業を行っている、あるいは良い先生だと評価を受けるという。

容姿の美醜による利得は、芸能人やアナウンサーなどの特殊な職業だけに限らない。たとえば、セールスにおいても、容姿が良いほうが売買契約の成功確率が高いという事実も報告されているという。

また、同氏の研究では容姿の良し悪しで収入差があるというデータもある。その数字は男性が17%、女性が12%。意外にも男性のほうが美醜による収入格差が大きいのだ。

まったく嫌な気分になる話かもしれないが、著者は容姿が整った人が得をする理由のひとつに「積極性」を挙げている。
容姿が整っている人は自分に自信を持つ可能性が高いので、何事に積極的に取り組む姿勢があり、その積極性が業績の向上に貢献することがある。逆に、容姿に自信がない人は、消極的になる可能性があり、仕事上のチャンスを逃すこともあり得るわけだ。

しかし、教育、職業、性格、身体的能力、働きぶりなど、生まれ持った容姿というハンディを覆すことができる変数は数多くあると著者は述べる。生まれながらの容姿については「それも人間の能力の一つに過ぎない」と割り切って、それ以外の能力を伸ばすことに邁進するほうが健全というものだろう。

(ライター/大村佑介)

遺伝か、能力か、環境か、努力か、運なのか: 人生は何で決まるのか

遺伝か、能力か、環境か、努力か、運なのか: 人生は何で決まるのか

生まれながらの不利を、いかに乗り越えるか!?

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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