だれかに話したくなる本の話

「自分から身バレに走っているかも…」 こだまさんデビュー2作目はより“キケン”な一冊!?

『夫のちんぽが入らない』(扶桑社刊)で衝撃的なデビューを飾ったこだまさん。その最新作となる2冊目の本『ここは、おしまいの地』(太田出版刊)が話題を呼んでいる。

前作は私小説だったのに対し、本作はエッセイ集。
カルチャー誌『Quick Japan』に掲載された文章を一冊にまとめているのだが、そのエピソードの可笑しさは、なにか突き抜けたものを感じる。 自身の体験のほかに、家族や同じ集落の人々、入院中に出会った人々などの身近な題材を、不遇な話も、下品な話も、すべてユーモア溢れる話に仕立て上げてしまうこだまさん。

インタビュー後編では、そんなこだまさんのルーツとなっている作家や、読者に伝えたいことについてお話をうかがった。

取材・文:金井元貴(新刊JP編集部)

前編<こだまさんに聞いた、「文章を書くこと」の意味>はこちらから

■こだまさんのルーツとなっている作家とは?

――普段、執筆時間は決めているのですか?

こだま:まだ家族に執筆活動のことを言っていないので、夫の出勤したあとにパソコンを開いて書いています。

――前作でインタビューをさせていただいたときに、「夫はもともと他人への関心が薄いので、私が何をしているのか気にならないようです」と言われていましたが、まだ知られていない。

こだま:そうです。夫は私が家で何をしているか全然気にしない人ですし、私も気にしない性格なので、似たもの同士です。なので、好きなことをやらせてもらっていますね。

――まさか東京に出てきて出版イベントに出演してサイン本を渡しているとは。

こだま:そうですよね。私はもともと実家に帰ることが多くて、ちょっと出かけてくるといって外泊させてもらうことはありましたから、その延長のように東京へ。特に何も言われませんが罪悪感でいっぱいになります。

――『夫のちんぽが入らない』は実写化も決定されていますが、そろそろ気付いてもおかしくないのでは…。

こだま:そうなんです。綱渡りのような生活をしています(笑)。でも、『夫のちんぽが入らない』は誰にも話しことがない私と夫だけの問題でしたし、夫は本に興味がないので1年間気付かれずに過ごせてきましたけど、今回の本は家族や周りにいる人たちの話もあるので、さすがにみんな気付いているんじゃないかと周囲からは言われますね。

ただ、もしかしたら、気付いていながらあたたかい目で見守ってくれていて、これ以上私が暴走し始めたらストップをかけようとしているのかもしれません。

――こだまさん自身は本はお好きなんですか?

こだま:はい、好きです。中学生の頃によく読んでいたのは太宰治です。それまで難しいと思っていた文学のイメージを変えてくれたのが『人間失格』でした。自らの恥をどんどん告白していきますよね。まるで自分の心の中を覗かれているような気持ちになり、そういう本を好んで読むようになりました。

――純文学を読んだりとか?

こだま:純文学というよりは、自分の話を書いているエッセイですね。向田邦子さんですとか、さくらももこさん、松尾スズキさん、椎名誠さん、穂村弘さん…。みなさん、軽やかでクスッと笑えるタイプのエッセイをお書きになる方で、大好きです。

――世界を斜めから切り取るような視点を持っている方々ですよね。

こだま:人が思いつかないユーモアをお持ちですよね。文体が明るくないのもいい。自分の性格にあっていて、自然とそういうものを書きたいと思うようになりました。すごく影響を受けている作家さんたちです。

■「この世界で私しか見ていないものがある」

――身バレの危険もありながら、これからも文章を書いていく。

こだま:そうですね。実はこのエッセイに、一目見ると分かる人には分かるというようなところがありまして、少し冷や冷やしています(笑)。自分から身元を明かしにいっているようなところもあるかもしれません。

エッセイの中に出てくる私の祖父もそういう気質だったので、私もバレたくないと思っている一方で身バレするようなことを書いているというところは、祖父の血なのかなと。止められないんですよね。もう病気です。

――一作目があれだけベストセラーになっても、それまで通りの生活を送れていること自体が信じられないです。

こだま:東京に来ると、作家活動をしていると実感するのですが、地元に戻ると私は病気で引きこもっている中年ですから、地元での生活にあまり変化はないですね。

でも、どちらも現実なのに正反対だから、たまに混乱することがあります。私は今、何をしているんだろうと思うこともありますし。

――田舎で生活をしていらっしゃる強みをどのように感じていますか?

こだま:都会だと、たいていの出来事は誰かがツイッターとかにアップしたり、誰かが注目をしてくれますけど、田舎で起きたことは自分が書かない限り何事もなく流れていってしまうんですよね。田舎にはそういう私しか見ていないものがあるし、それを面白がって書くようにしています。

――自分しか見ていないもの。

こだま:そうです。この世界で私しか見ていないものがあるので。

――ご病気の話も、それこそ『夫のちんぽが入らない』のお話も、こだまさんだけのご体験ですからね。

こだま:骨がなくなってしまう奇妙な出来事だったり…。全部に共通していることかもしれません。

――では、最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

こだま:失敗とかつらい出来事とかあると思うんです。でも、時が経ったときに少し違った視点でそれを見てみると、面白く見えたり、笑える話になったりすると思うんですね。このエッセイにもそういうエピソードがたくさん入っているので、「バカだなあ」と笑い飛ばしてもらえたら嬉しいです。そうすれば失敗したかいがありますから(笑)。

(了)

ここは、おしまいの地

ここは、おしまいの地

衝撃デビューを飾った著者の“ちょっと変わった”自伝的エッセイ。

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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