だれかに話したくなる本の話

中小企業の生産性向上に必須な「賃金制度」 専門家が語る正しい運用法(1)

仕事のモチベーションは人それぞれだが、給料は仕事を選び、続けていくための重要な要素なのはまちがいないだろう。

それゆえに、賃金が大企業と比べると低い中小企業ほど人材が集まらない、定着しない、という問題に悩まされやすい。人的リソースの不足がネックとなり、事業が成長せず、さらに賃金が上がりにくくなるという悪循環をいかに抜け出すかは中小企業の未来を決めると言っても過言ではないはずだ。

賃金制度はこの問題の解決方法の一つだろう。中小企業の中には従業員の賃金を決める基準が不明瞭だったり、あるいは存在しなかったりするところも多い。「賃金が低く、しかも社長の一存で決まる」という状態は、従業員の賃金への不満に拍車をかけてしまう。

今回はこの賃金制度の導入と運用について『小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方 ~「やる気のある社員」が辞めない給与・賞与の決め方・変え方~』の著者・山元浩二さんにお話をうかがった。

――『小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方 ~「やる気のある社員」が辞めない給与・賞与の決め方・変え方~』についてお話を伺えればと思います。今回の本は中小企業の賃金をテーマにしていますが、中小企業の経営者が自社の課題として「賃金の低さ」を自覚しているケースは多いのでしょうか。

山元:多いとは思います。ただ、今回の本の中で「従業員100人未満の中小企業の平均年収(379万円)」「従業員1000人以上の企業の平均年収(500万円)」「東証一部上場企業の平均年収(665万円)」を数字データで出しているのですが、こういった数字を踏まえて問題意識を持っている方はあまりいないでしょうね。

経営者同士で横のつながりがありますから、交流のある経営者同士で話して給料の話が出た時に「あそこはあのくらいだから、うちはちょっと低いのかな」というように認識している程度だと思います。

――経営者同士で給料の話はよく出るのでしょうか。

山元:出ると思いますよ。ただ、実態を正直に話しているかはわかりません。少し盛ったりするかもしれませんね(笑)。

――山元さんは中小企業を対象に組織生産性を高める社内制度づくりをテーマにした著書で知られています。今回の本で賃金制度を取り上げた理由を教えていただければと思います。

山元:これまでに経営計画や人事評価制度についての本を書いてきましたが、いずれもゴールは「人材の成長」でした。ただ、最終的には成長が賃金に反映される必要がありますので、今回はそのための仕組みづくりをテーマにしています。

前回の本を読んでくださった方からも、賃金制度について教えてほしいという声が多かったのも理由ですね。

――従業員みんなが納得する賃金制度を作る難しさを痛感する内容でした。賃金制度導入で起こりうる失敗例を教えていただければと思います。

山元:コンサルタントとして駆け出しの頃はクライアント企業の社長のニーズに応えるだけでしたから、「従業員が賃金に不満を持っているから賃金制度を導入したい」と言われたらその通りに賃金制度だけを作って導入していたのですが、そのほとんどが失敗に終わりました。賃金制度だけをいきなり導入してしまうと、従業員がかえって不満を溜めてしまうんです。

――なぜでしょうか?

山元:昇給の仕組みだけをつくっても、昇給させるかどうかという評価のための仕組みがなかったり、あっても不透明だったからでしょうね。評価をする現場のリーダーの評価スキルが育っていなかったというケースもあったはずです。

こうしたものが揃わないうちにいきなり賃金制度を導入すると失敗しやすいんです。

――そもそも賃金制度がない会社もあるんですか?

山元:あります。制度自体が存在しない会社もありますし、一応就業規則に賃金表があるものの実態とかけ離れているという会社もあります。小さい会社だと査定をする人事・総務部がなかったりすることもありますし。

たいていは社長がそれぞれに対して、今貰っている給料をベースに「今期はがんばったからこれだけ上げよう」とか「賞与は前回この額だったから今回はもう少しあげよう」とか一人で決めているケースですね。

――そういう状態が長く続くと従業員から賃金を決めるルールを作ってほしいという要望が出るのは予想できます。

山元:そうですね。それで社長の方も「それならルールを作ればみんな納得するだろう」といきなり賃金制度を入れてしまうわけです。ルールさえ作れば自動的にみんなの給料が決まるから自分も楽だろうという考えもあるでしょうしね。

ただ、賃金を決めるルールは各従業員の評価が公平であってはじめて意味を持つものです。そこをまずは理解する必要があります

――賃金制度の前にまずは評価制度をというお話はよく理解できます。ただ、評価制度は会社のビジョンとベクトルが揃っている必要があるということも書かれていました。ビジョンについては中小企業経営者の中には考えたことがない方も少なくないのではないかと思うのですが、どのように自社のビジョンを決めていけばいいのでしょうか。

山元:ビジョンとは「会社が5年後、10年後にどうなっているか」というものです。経営者の方は、過去の経験に縛られず、それまでのしがらみや今の顧客の状況、業界の動向はひとまず脇に置いて考えていただきたいです。

――業種や業界に関わらず、今回の本で書かれている手法は使えるのでしょうか。

山元:使えます。大きな会社は評価制度にしても賃金制度にしてもすでにあるでしょうから、中小企業の方々に使っていただきたいですね。

(後編につづく)

小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方 「やる気のある社員」が辞めない給与・賞与の決め方・変え方

小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方 「やる気のある社員」が辞めない給与・賞与の決め方・変え方

30代前後の社員のやる気が上がる。「えんぴつなめなめ社長が決める」を解消!働き方改革、生産性向上、同一労働同一賃金を実現!人事評価制度の超プロが実際に使っている導入ノウハウを公開!このとおりにやれば移行できる!

この記事のライター

新刊JP編集部

新刊JP編集部

新刊JP編集部
Twitter : @sinkanjp
Facebook : sinkanjp

このライターの他の記事