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『謎のカラスを追う―頭骨とDNAが語るカラス10万年史』中村純夫著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

カラスの本を何冊か読んで、すっかりカラスが好きになった。
大学の講義でカラスの研究してる助手さんが、カラスの声で個体識別可能と言っていたのが記憶に残っている。
そこで飼っていたのがハシブトなのかハシボソなのかは不明ですが、ブトだとしたら鳴き声は「カー」、ボソなら「ガー」らしい。
わたしが普段目にするカラスは生息域からみるとハシブトガラスのはずだが、ハシブトガラスは西はアフガニスタンからインド、東南アジア、東アジア、北東アジアに分布している。
そしてハシブトガラスには地域によって亜種が存在し、日本列島のジャポネンシスと大陸のマンジュリカスが登録されている。
本著は樺太でジャポネンシスとマンジュリカスが交雑しているという仮定のもとに、樺太での標本採取に奔走した著者の記録である。

カラスの研究をしているといえば、どこかの大学か研究機関に所属していると思うだろう。
だが著者は高校教師をしながら生物学を学び、還暦も近くなった頃に早期退職してカラス研究のフィールドワークに飛び込んだという経歴の持ち主である。
しかも無所属、完全なるフリーランスで研究をしているというのだからすごい。
第二の人生でこんな生き方もできるんだと参考になった。

とはいえ樺太でカラスの標本を集めるのはなかなかハードな作業のようです。
まず現地でドライバーとハンターを雇い、撃ち落としたカラスを標本にしていく。
言葉にすれば簡単そうだが、道なき道を野宿しながら一カ月以上移動し続けるなんて相当体力と精神力が必要だろう。
しかも言葉の壁もあり、標本作りも匂いの問題や集中力が問われ。
後半になっていくと、研究で結果が出なければ時間とお金と数百羽のカラスの命を無駄にしただけだというプレッシャーとも戦います。
フリーランスのためなのかロシアのお国柄なのか、カラスの頭骨標本を税関すり抜けという荒業で通してしまっているところは驚いた。
まあもう時効なのかもしれないけれど、普通に申請したんじゃダメだったんでしょうか。

著者は形態学を専門とするということで、標本にしたカラスの頭骨を計測し比較することでジャポネンシスとマンジュリカスの生息域を検討している。
さらにタッグを組んだロシアの学者は、一緒に採取したDNA標本から同じく研究をしている。
分野が違うと結果も違うということもあるようで、はっきりとジャポネンシスとマンジュリカスの住み分けもしくは交雑が双方一致してはっきり証明できたというわけではない。
だが頭骨を計測しただけでもカラスが大陸の移動や気候変動の中でどう分布していったかの予測はつくことがわかった。
その結果より著者のカラス研究に打ち込んだ第二の人生の在り方が印象に残る本だった。

(レビュー:DB

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謎のカラスを追う―頭骨とDNAが語るカラス10万年史

謎のカラスを追う―頭骨とDNAが語るカラス10万年史

鳥類学者がフィールドで真実を探求する醍醐味と厳しさを描く一冊。

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