だれかに話したくなる本の話

『微生物の狩人 上』ポール・ド・クライフ著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

上下巻通しての書評です。

普段はあまり教科書の延長線上的な本は読まないのですが、読んでみたら本著はとても面白かった。
微生物研究の歴史上に名を連ねる微生物ハンターたちを追った本だ。

まず最初に登場するのはレーウェンフック、オランダの商人にして顕微鏡造りに生涯をかけた男だ。
フェルメールの絵でレーウェンフックのことは知っていたが、微生物学の発展にそこまで貢献した人物だったとは知らなかった。
本著を読んでいると、ミクロの世界に魅せられた少年のような心の老人が浮かんでくる。
ひたすらガラスを磨いて顕微鏡を作り、そこで見た世界を王立協会に投稿し続けていた。
だが自分の宝物を人に売ることは考えられなかったらしく、顕微鏡が正式な学者の手にわたるのはレーウェンフックの死を待たなければならない。

次に登場するのはイタリアのスパランツァーニです。
レーウェンフックはただ自分の見たものに驚嘆して正確な観察記録を残しはしたが、それがどのような生態を持つかを実験によって明らかにしていったのがスパランツァーニだった。
スパランツァーニの死後三十数年、パストゥールによってようやくこれらの微生物の病原性が証明されることとなる。
パストゥールの発見した酵母による発酵とカイコの病気の発見、そして何より重要な狂犬病ワクチンの開発と、コッホの発見した炭疽菌と結核菌が後続の微生物ハンターたちの先鞭をつけることとなった。

彼らが最初に相手にした疫病の原因がウイルスではなく最近だったのは幸いというべきだろうが、顕微鏡を覗き込み、実験動物に囲まれ研究に没頭する学者の姿が浮かんできます。
それにそれぞれに個性的な性格を持っているのも見事に描き出しているところが偉人の伝記と違うところ。

下巻ではジフテリア菌と戦ったルーとベーリング、人体の免疫について研究したメチニコフ、ダニによる細菌の伝播を証明したセオボールド・スミス、本著では睡眠病と書かれているがツェツェバエが媒介するシャーガス病を発見したデイヴィッド・ブルースが紹介されます。

もちろん科学界でのトロフィー争いが熾烈なのは周知の事実だ。
マラリアをめぐるロスとグラッシの対立はそのいい例だが、ほんの一例でもある。
だいたいどこの大学でも病院でも派閥争いの気配を上手にかぎ分けないと生き残れないしね。

マラリアと同じく蚊によって伝播する黄熱病の研究をしたウォルター・リード、そして微生物に化学をもって対抗しようとしたエールリッヒを紹介して終わります。
過酷な環境の中でも微生物を追い続け、時に自分自身を実験台にしながら進んでいった微生物の究明の道は今も続いている。

(レビュー:DB

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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微生物の狩人 上

微生物の狩人 上

顕微鏡で微生物を発見した17世紀のオランダ人、レーヴェンフック。

微生物が病気と深いかかわりを持つことを発見した19世紀のフランス人パスツールとドイツ人医師コッホと梅毒の特効薬サルバルサン606号を発見したエールリッヒ。

この本は人類を悩ませ続けてきた数々の病原体の発見、ワクチンや治療薬の開発などを通じて社会に貢献した微生物学者13名の伝記をハイライト風に綴っている。

大きな仕事を成し遂げた人間たちの個性と激しい生き様を知ることが出来る。

結晶学を志したパスツールがワインを酸っぱくさせずにアルコール発酵させるかという問題から如何にして狂犬病のワクチン作りと治療に取り組むに至ったか。

臨床で多忙をきわめていた医師コッホが28歳の時に夫人から贈られた顕微鏡によって微生物学に開眼し、当時、ヨーロッパに蔓延していた結核の病原体-結核菌を発見するに至ったか。

彼ら「微生物の狩人」たちのお陰で今の私たちがある。

微生物学がいかに人類を救済してきたかを分かりやすく伝える。

この記事のライター

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