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新刊JPトップ > 特集 > 「リクルート事件の真実 ― 葬り去られた稀代の経営者・江副浩正 ―」

リクルート事件 司法問題の穴―取り調べの「真実」―

『リクルート事件・江副浩正の真実』全400ページの約40%近くを埋めているのが「取調べ」のシーンである。

しかし、「取調べ」というには大分聞こえがいいのかも知れない。
江副氏によってつづられているのは、あまりにも行き過ぎたまるで現代の「拷問」のような世界であり、同じく逮捕経験がある元ライブドア社長の堀江貴文氏も「彼ほど長い間不安定な立場に立たされていたらどうなったか分からない」とブログで感想をつづっている。

怒鳴ることは当たり前、検事たちはあの手この手を使いながら立件を急ぐ。ここではまず、手段をいとわない「拷問」の様子を『リクルート事件・江副浩正の真実』から紹介する。

■丸裸にされ、肛門にガラス棒を突っ込まれる(p108)
拘置所に入るときのこと。財布、鍵、時計などの所持品が取り上げられた江副氏は、丸裸にされ、10人ほどの看守が見ているところを歩かされたという。そしてなんと突然肛門にガラスの棒を突っ込まれ、棒を前後に動かされたと述べている。
これは「カンカン踊り」という、拘置所に入る際の儀式で表向きは痔の検査と説明されるという。江副氏は「どう考えても不必要な“痔の検査”だった。」と思い返している。

■壁に向かって立たされる(p130-p136)
取調べの最中、江副氏はたびたび壁に向かって立たされたという。NTTルートを捜査する神垣検事に怒鳴られるがまま、壁に立たされる様子を江副氏は本書内で以下のように克明に表現している。

「立てーっ! 横を向けっ! 前へ歩け! 左向けっ左っ!」
壁のコーナーぎりぎりのところに立たされた私の脇に立って、検事が怒鳴る。
「壁にもっと寄れ! もっと前だ!」
鼻と口が壁に触れるかどうかのところまで追いつめられる。目をつぶると近寄ってきて耳元で、「目をつぶるな! バカヤロー! 俺を馬鹿にするな! 俺を馬鹿にすることは、国民を馬鹿にすることだ! このバカ!」と、鼓膜が破れるのではないかと思うような大声で怒鳴られた。
(中略)
しばらくすると壁が黄色く見えてくる。目が痛くて、瞳孔が縮んだせいか壁に黄色いリングが見える。悲しくないのに涙が出てきた。(p133)

もちろん足への負担も尋常なものではない。江副氏は毎晩布団の中で足首を曲げ伸ばしし、血行を良くして寝るようにしていたという。
そんなことが毎日続く、まさに現代の拷問とも言うべきことである。

リクルート事件 「壁に向かって立たされる」

■土下座させられる(p155-p158)
神垣検事は「直接(江副氏が)眞藤に電話をしてコスモス株の話を持ちかけたのではないか」と捲し立てる。しかし、全く身に覚えがない江副氏はそれを否認。
しかし、ある夜の取調べが始まってすぐ、神垣検事が突然取調室を出ていき、その20分後取調べに戻り、声を荒げてこう言った。「おまえは嘘をついていた! 眞藤はさっき落ちた! 眞藤はお前から直接電話を受けたと話している!」。神垣検事は江副氏の椅子を蹴り上げ、土下座を命令。江副氏はこのとき恐怖心からか抵抗力を失い、「嘘を申し上げてきました」と発言し、調書に署名してしまう。
しかし、江副氏が保釈後、開示された眞藤氏の調書を見てみたところ、眞藤側の調書には「(江副氏から)直接電話は受けた」という記載はなく、“切り違え尋問”に引っかかってしまったという。この“切り違え尋問”は本来は違法な捜査手法だが、思うように調書が取れないと、検事はそういった手段を取ってくることもあるという。

江副氏はあまりの取調べの辛さに、自殺することも考えていたという。発作的に屋上に上って飛び降りたくなるという危険な精神状態に陥り、墓の準備もしていた。また、医師に睡眠薬の致死量をそれとなく聞いたこともあったという。

またこうした拷問のような取調べのほかにも、他にも検事が新聞の報道を持ち出しながら取調べを進めたり、報道や世論の元に検察が動くという構造に対し、江副氏は鋭く迫っている。

しかし、江副氏は本書の「あとがきのあとがき」でこのように語る。

「本書では、検察に対して非難めいたことを書いてはいるが、私としては、取調検事個人への恨めしい気持ちはまったくない。厳しい取調べは取調検事の職務意識から発したことと思っている。検事はいずれも職務を忠実に実行された人々であり、陰湿なところのない分かりやすい人たちであった。
問題は、取調べが密室で行われていて、取調状況のすべてが可視化されず検察官調書に重きが置かれる現行の司法制度にあると私は思っている。」(p389)

2009年5月から裁判員制度がはじまり、「市民の視線で人を裁く」という試みがスタートした。しかし、その前の段階、取調の状況が可視化されない限り、どこかで歪みが生じているのは間違いないだろう。

江副氏が提示した「司法制度の穴」をどう埋めていくのか、これは今後の日本の司法が課せられた課題である。

リクルート事件・江副浩正の真実