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【「本が好き!」レビュー】『愛国殺人』アガサ・クリスティー著

提供: 本が好き!

名探偵ポアロ長編第十九作目。これも若い頃に読んで、粗筋は忘れてしまったものの、犯人だけはよく覚えている作品。

モーリイが営む歯科医院が最初の事件の舞台。ある日の午前中、ポアロ、財界の大立者ブラント、元女優のシール、ギリシャ人のアムバライオティスの順番で治療を受ける。ポアロが帰宅後、ジャップ警部から電話がかかってくる。ポアロが受診したばかりの歯科医モーリイが拳銃で自殺したらしい、と言う。12半に予約した客が、何時までも待たされるのでしびれを切らしてボーイを呼び、そのボーイは1時半にモーリイの死体を見つけた。ポアロとジャップ警部はモーリイの家族やその日の患者に事情を訊いて回る。モーリイは独身で妹と暮らしていたが、その妹の話では自殺の兆候などなかったという。患者を中心に歯科医院の出入りの方も調べる。当日休んだ秘書のグラディスにはカーターという恋人がいるがグラディスとカーターの交際にモーリイは反対していた。そのカーターが午前中に医院に来ていたことがわかる。11時半に診察を予約しながらキャンセルしたハワード・レイクスは理想主義で、別の患者で財界の大立者のブラントを保守的過ぎると思っていた。患者同士で政治的反発があるのだろうか?ポアロとジャップ警部は、ポアロの次の患者シールの事情聴取をし、次にブラント、最後にアムバライオティスを訪ねた。だがアムバライオティスを訪問してみると彼も亡くなったという。ジャップ警部は、モーリイが、アムバライオティスに誤ってアドレナリンとプロカイン(いずれも歯肉に投与する薬物)を多量に投与し、そのことに気づいて自殺したという構図を固めた。しかし、ポアロは、モーリイの死亡も殺人事件と言う見方を譲らない。ポアロのすぐ後に受診したシールも失踪し、1カ月後に死体となって見つかった。その後も、首相と居たブラントの暗殺未遂事件が起きる。歯科医の死に始まった事件の背後には陰謀があるのだろうか・・。

ポアロと陰謀ものというと、「謎のビッグ・フォア」を思い浮かべるが、あれはひどい作品だった。本書も読んでいて、似たような感覚に囚われたが、途中で事件の構図が変わり、一応意外な犯人を導く古典的な本格物の枠に収まる作品となっている。犯罪のプロットはそれなりに考えられたものだと思うが、できればモーリイの歯科医院の見取り図が欲しいところ。本書は一般的なトリックの他に犯罪全体を俯瞰する目に意外性がある点がみそ。後者をどう評価するかで作品への好悪が分かれるのではないだろうか。

本書では「青列車の謎」以来久しぶりに執事のジョージが登場する。かなり間隔があいた感じがするがジョージが一歳でも歳をとったようには見えない。ここまで読んできてジャップ警部が意外と長編に登場しないものだと思ったが、彼も「大空の死」から久々の登場である。ジャップ警部のセリフに「あれ」から20年経ったとあり、これは第一作「スタイルズ荘の怪事件」から20年経ったということを意味する。本書が長編第19作であることを考えるとポアロの長編事件の発生間隔は、概ね作品の発表間隔である1年に近いのだろうと思うが初期の事件や幾つかの事件は近接して発生しており、この作品の頃にはかなり間が空いて事件が起きたと考えないと辻褄が合わない。20年経っても主任警部のままというジャップの奉職歴は、シャーロック・ホームズもののレストレード警部、ルース・レンデルの一連の作品の主人公であるウェクスフォード主任警部並みの長さである。こうなってしまうのは、長期間続く名探偵ものに登場する警官が順当に昇進を重ねてしまうと、警視総監になりかねず、事件に手を染めることはなくなってしまうからだろう。

(レビュー:ゆうちゃん

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愛国殺人

愛国殺人

憂鬱な歯医者での治療を終えてひと息ついたポアロの許に、当の歯医者が自殺したとの電話が入った。しかし、なんの悩みもなさそうな彼に、自殺に徴候などまったくなかった。これは巧妙に仕掛けられた殺人なのか?マザー・グースの調べに乗って起こる連続殺人の果てに、灰色の脳細胞ポアロが追い詰めたものとは。

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