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【「本が好き!」レビュー】『「お金」で読み解く世界史』関眞興著

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

4000年の歴史を動かしたのはマネー=富だ!教科書に載っていない、政治や戦争とは違った視点で世界史の本質を読み解く。個人の蓄財から商売、貿易、金融、商社や国家の財務まで含めた「お金の流れ」から歴史をみていく。

貨幣経済の黎明期

物品貨幣に続いて使われるようになったのは金属、それも金や銀などではなく、銅や青銅、鉛、鉄など卑金属であった。もちろん金や銀も人々の好むところではあったが、まだ貨幣ではなく宝物としての意味合いが強かった。貴金属貨幣が現れるのは、卑金属貨幣の次の段階である。最初の段階では金より銀の勝ちの方が大きかった。これは採掘技術の問題であり、砂金などとして手に入る金に対し、銀は精錬方法が難しかったことによる。卑金属であっても貴金属であっても、初期においては支払いのさい、その重さを秤で計量する「秤量貨幣」であった。

物々交換から金属貨幣への移行の意味は大きい。物品貨幣の場合、交換物資に等しく分割することが難しい。秤量貨幣はこのような問題を解決する一歩進んだものであった。そこからもう一歩進んで鋳造貨幣が最初に登場したのは、リディア王国(アッシリア説もある)。鋳造貨幣がその地域や時代の交換価値基準となり、経済活動の安定に寄与した。為政者はその発行権を握り財政的に行き詰まると貨幣の改悪を繰り返すことも。ヨーロッパ中世において幾度となく貨幣改悪の経験を経た後、近代統一国家が形成されてからやっと貨幣経済が本当の意味で役割を果たすように。日本でも時代ごとの経済政策により小判の品位(金含有率)・量目ともに改悪されることが多かった。

金をめぐる伝説

この国の王をミダスという。「王様の耳はロバの耳」の伝説で知られる人物であるが、あわせて彼はギリシア神話に登場する豊穣と葡萄酒の神ディオニュソスから、手を触れると全てのものが「金」になるという能力を与えられ田という伝説でも知られる。ところが、食べ物までが金になり、困ったミダスはディオニュソスの忠告によりパクトロス川で水浴した。すると呪文が解け、この川で砂金が取れるようになったという。この伝説の解釈は様々であろうが、フリギア王国の豊かさを物語っているとも解釈できよう。ちなみにリディア王国で鋳造される貨幣はこの川の砂金が使われたという。

リディア王国での貨幣鋳造はギリシアのアテネ沖合に位置するアイギナ島へ伝播。アイギナで商業活動が盛んになったのは、土地が痩せていて穀物栽培に適さなかったなどの理由が挙げられる。これに続き貨幣を鋳造したのがアケメネス朝で、当時の王であったダレイオス一世。「ダレイオス金貨」という金貨を鋳造した。

アテネ民主政は「中産階級」が支えた

ギリシア人の歴史は前一七世紀頃に成立したミケーネ文明に端を発する。ミケーネ文明は前一二〇〇年頃、エーゲ海北部でトロイア戦争が行われた頃に崩壊し、ギリシア世界は暗黒時代に突入したと言われる。中産階級の活動が始まったのはこの時代のようだ。中産階級は自身の土地を所有し、ポリスが建設される前八世紀になると、彼らの所有する広さ四ヘクタールほどの小農園が一〇万ほどあったとされる。

勤勉な労働が中産階級の理想とすべき姿として讃えられたことは、奴隷の使用を認めるものとも思えるが、時代背景から農民などの中産階級の労働力不足なども見て取れる。そんな中、アテネでは両替商が出現。商工業の資金を貸し付ける銀行家と言ってもいいような職業だ。多くの人が往来するアテネのアゴラではこのような両替商が軒を連ねるようになる。庶民の間では少額貨幣が流通し、今でいうスーパーやコンビニに当たるアゴラ(アクロポリスの丘の下の広場、民主政治の舞台となった)で売り出される惣菜のようなものに使われた。

チューリップ=バブル

実質的な独立を果たし、当時のヨーロッパの経済大国になっていたオランダで、一六三〇年代後半、チューリップに対する異常なまでの投機熱が起きた。その原因は今日まだ直明らかにされていないが、一般論として「バブル」が起きる前の社会状況としては、経済の好況を背後に、その恩恵を受けられない多くの庶民がいたことが指摘できる。貧しい一般庶民までもが一攫千金を狙う投機ブームがバブルを生んだ。その材料となったのがチューリップであったのは、それが庶民にも手に入れられたからであろう。

16世紀頃、オランダにチューリップがもたらされた。原産は中央アジアとその周辺であったとされる。チューリップは球根の増産が難しく、たまに珍しい品種が出てくることで注目を集めた。品薄になると投機の対象としても注目されるようになり、一般庶民もここに参入して収集がつかなくなることに。高値をつけた球根が一夜にして100分の1の価値まで暴落し、バブルは数年で消え去ることとなった。

世界史を「お金」というスケールで見ることで新たな発見も出てくる。戦争や政治だけではない歴史がここに。4000年の歴史を本当に動かしたのは「お金」である。格差が騒がれる昨今、歴史を紐解くことで教訓を得られる書籍となっています。

(レビュー:sawady51

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

『「お金」で読み解く世界史』

「お金」で読み解く世界史

古代エジプトから近代が始まる前までをお金と経済で読み解くユニークな世界史。教科書が描かない、政治や戦争とは違った視点でつかむ世界史の本質。

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