だれかに話したくなる本の話

『ムー』編集長に聞いた「フェイクニュース」「オカルト」「超能力」のこと(2)

「フェイクニュース」が問題となり、情報の確度に対して世の中全体が敏感になっている今、独特の存在感を発揮しているのが、1979年に創刊された雑誌『月刊ムー』だ。

「日本最長寿のオカルト雑誌」とも称されるこの雑誌、扱うネタにはUFOから超能力、怪奇現象や陰謀論まで、一般的に「眉唾」とされるものが多々ある。

こうした情報を『ムー』はどのようなスタンスで発信しているのか。編集長の三上丈晴氏にお話をうかがった。その後編をお届けする。 (インタビュー・記事/山田洋介)

■「『ムー』はオカルトではない」その真意とは

――三上さんは、学研に入社した年から『ムー』に携っているとお聞きしました。世間的に『ムー』は「オカルト雑誌」と言われていますが、長く携わるなかで「オカルト」を巡る環境の変化を感じることはありますか?

三上:私自身は『ムー』をオカルト雑誌とは思っていません。科学雑誌でもなければオカルト雑誌でもない。

一般の方は「漠然とした怪しいもの」を全部「オカルト」とひとくくりにしてしまいますが、「オカルト」は本来極めて限定的な言葉で、白魔術や黒魔術の儀式をして天使を召喚するとか、呪いをかけるといったことを指す言葉です。そこに超能力や霊能力が不随する。

こうした語義を考えると、『ムー』は「オカルト」とはいえません。ピラミッドも扱えば、死後の世界も扱うわけですから。ピラミッドは考古学や歴史の話だし、死後の世界は宗教的な側面があって、これは哲学の範疇に入ります。「超ひも理論」など科学に関することも扱いますし、単純に「オカルト」とはいえない雑誌だと思っています。

――先ほど「怪しい世界」とおっしゃっていましたが、「フェイクニュース」が問題になるこのご時世ですから「事実ではない」という理由で苦情を言ってくる人がいたりしないのでしょうか。

三上:それはまったくありません。というのも、おそらく、『ムー』の読者というのは色々なことに対して一家言持っていて、マスコミやメディアの情報、あるいは世間で常識とされている物事に対して疑ってかかるところがあるんですよ。

どんなことに対しても「これが本当のことだとされているけど、そうじゃないんじゃないか。真実は他にあるんじゃないか」と思っている。だから『ムー』を読んで、世間的には常識外れな説や意見に触れても「こういうこともありえるんじゃないか」と否定せずに受け入れられる。その意味では作り手よりも読み手の方がレベルが高いと思いますね。

表紙

――しかし、今後読者以外の外部の目が厳しくなっていくことも考えられます。

三上:「これは事実ではない」と批判する人がいたとして、ならばその人がいう「事実」というのは誰がどう判断しているのか、というのは考えてみていただきたいですね。自分で検証して確かめたわけではないでしょうし、たとえ検証したとしても事実とは限りません。

世の中そう単純じゃない。へそ曲がりな考えではありますが、事実だとされていたことが後になってウソだとわかったということなどいくらでもありますし、もちろんその逆もあります。

いち編集者としては、読者がおもしろいと思う記事を作るのが使命です。「知的エンターテインメント」というと恰好いいですが、そのスタンスは今後も続けていきたいですね。

――読者が求めているコンテンツがあって、それに応えられているという意味では幸福な関係ですね。

三上:マニアがいて成り立つ雑誌ですから、すべてを網羅しているわけではありませんし、偏っているといえば偏っています。

世の中に対するアンチテーゼといいますか、「こんなのあるわけないよ、でもひょっとするとあるかもしれない」と思っている人の受け皿になれればいいと思います。

――編集長としておもしろいと感じるのはどんな記事ですか?

三上:どうしても扱う素材は決まってくるので、いかにそれを料理するかがカギです。こちらをいい意味で裏切る記事はおもしろいですね。

――編集長になってから一番驚いたできごとを教えていただきたいです。

三上:毎月驚いていますが、やはり超常現象を目の当たりにするとびっくりしますよ。

――超常現象を見るんですか?

三上:たとえばスプーン曲げにしても、超能力者がやるものはトリックや手品とはまったく別物です。手品としてスプーンを曲げる方法は40通りほどありますが、いずれにせよスプーンの分子レベルまでは変わりません。

ただ、中には質量欠損を起こすケースがある。スプーンを切断した両側の重さを足しても元通りにはならないんです。

――スプーンの一部が消えてしまっている。

三上:消してしまったか、どこかに持って行ってしまったか。実際超能力はあると思いますよ。ロシアや中国が有名ですが、超能力についての研究は実際に多くの国が行っている。

ただ、そういう本物の超能力というのは政治や軍事、宗教のトピックであって「エンターテインメント」が扱えるものではありません。それに、人間の心理として未知のものは怖がりますから、たとえ超能力者がいるとしても、メディア的には「トリック」というところに着地させざるをえないでしょう。

――最後に、今後の『ムー』について告知やメッセージがあればお願いします。

三上:2018年3月号の特集は「生まれ変わり」がテーマになっていて、前世の記憶は未知なる「場」に組み込まれているというお話です。

あとは「ゾンビ病」という、狂犬病に似た罹患すると仮死状態になってから生き返って人を襲う病気があって、それで古代マヤ文明が滅んだんじゃないか、そのウイルスを今米軍が兵器として開発しているんじゃないかという読み物もあります。ぜひ読んでみていただきたいですね。
(インタビュー・記事/山田洋介、写真/金井元貴)

『ムー』編集長に聞いた「フェイクニュース」「オカルト」「超能力」のこと(1)を読む

ムー 2018年 03 月号

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この記事のライター

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山田洋介

1983年生まれのライター・編集者。使用言語は英・西・亜。インタビューを多く手掛ける。得意ジャンルは海外文学、中東情勢、郵政史、諜報史、野球、料理、洗濯、トイレ掃除、ゴミ出し。

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