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「日本は二度目の敗戦を迎えている」 鴻上尚史と白井聡が対談で語った「危機感」と「希望」

平成が終わろうとしている。「失われた20年」はいつしか「失われた30年」と呼ばれるようになり、経済の停滞や少子化などの問題は次の時代への期待に暗い影を落としている。

この閉塞感はどこからやってきて、どこまで続くのだろうか?

6月26日に早稲田大学で行われた、劇作家の鴻上尚史氏と評論家の白井聡氏の対談イベントに打たれたタイトルは**『未来を探る君たちへ。「二度目の敗戦」をどう生きるのか?』**。

鴻上氏はベストセラーとなっている『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)で、日本人の「集団依存主義」や「運命依存主義」を浮き彫りにし、それが現代に至るまで引き継がれていることを指摘する。
一方の白井氏は「歴史的な大事件は二度起きる」という歴史観から、近刊『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)を上梓。日本は二度目の「敗戦」を迎えようとしていると訴える。

そんな2人の対談は、まずそれぞれの自己紹介と著書についての説明からスタート。

鴻上氏が『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』で取り上げた故・佐々木友次氏は、戦争当時、計9回特攻として出撃し、9回生還したという人物。2016年2月に死去したが、その前年から鴻上氏はインタビューを行っていたという。

そんな鴻上氏は、当時の日本軍の体質が今に至るまで引き継がれていることを指摘する。それが表出したのが日本大学アメフト部で起きた「反則指示」問題だ。選手側は「命令だった」と訴え、監督・コーチは「選手の判断」と言い切る。
これと同じことが70年前にも起きていた。「『特攻しろ』とは言っていない。『体当たりするしかないと思うがどうか』と言っている」という軍側の言葉。命令なのか、志願なのか。その構図は時代を経ても変わっていないことを述べる。

白井氏は、戦前にファシズムの温床となっていた「国体」が、戦後も生き続けていることを指摘。ただそのトップに君臨する存在が「天皇」から「アメリカ」に変わっていると述べる。
その論調から、白井氏は対米従属批判の先鋒と見られがちだが、実は彼は対米従属そのものを批判しているわけではない。批判の対象はその「特殊性」だ。アメリカに戦争で負けたことや今のアメリカの影響力を見ても、日本が対米従属になっても不思議ではない。しかし、日本が自身の対米従属の姿勢を不可視化していること、イデオロギーとして否認していることに対して白井氏は批判をしているのだ。

「普通、国と国は利害関係で結びついています。でも、日米は利害関係で友好を深めているわけではないと訴えます。それがよくあらわれているのが『トモダチ作戦』や『思いやり予算』ですよね。殺し合いの後に(両国間に)真の友情が芽生えて、お互いの敬愛の感情に基づいて国交が続いてきた、と」(白井氏)

戦争に負けても日本の体質は変わらない。そして「2度目の敗戦」へと突き進む。このような状態で、私たちは今をどう生きるべきなのか? 二人はそのヒントも語ってくれた。

その一つは鴻上氏が取材した佐々木氏はなぜ9回出撃し、9回とも生還したか、という部分にある。鴻上氏はインタビューを重ねる中で、佐々木氏の「飛行機で空を飛ぶことが好き」だという想いに気付く。

「パイロットって技術職で、どんなに参謀から文句を言われても空に飛び上がったら一人なんです。空を飛んでさえすれば満足だし、そこでは自由なんですよね。だから、(佐々木さんは)生還してどんなに罵られても抵抗できたのだと思います」(鴻上氏)

鴻上氏は、佐々木氏が生き延びられた理由を「空を飛ぶことが好き」という気持ち、そして「技術がある」という点に見出す。それに同調した白井氏は「好きなことが、最後の最後で人間としての判断を誤らせないのだと思います」と述べ、「現代の日本人は愛する対象を失っているのでは」と危機感を募らせる。

この白井氏の言葉の背景にあるのは、現代人が何かに対する深い愛着を持てなくなっている現状だ。資本主義においては「どんどんモノが消費される」ことが重要になるため、一つのものをじっくりと味わうということができなくなっているのだ。

実は鴻上氏と白井氏はいずれも早稲田大学の出身。
もちろん質疑応答の時間も用意され、早稲田大学の学生たちからの質問に対して真摯に答える姿がうかがえた。その真摯さの根底にあるのは、「2度目の敗戦」の後の日本を背負う若者たちへの期待なのだろう。

(取材・文:金井元貴)

戦後日本の異様な対米従属の「正体」とは? 『国体論』白井聡さんに聞く

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金井元貴

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