だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『ミカンの味』チョ・ナムジュ著

提供: 本が好き!

四人の主人公たちソラン、ダユン、ヘイン、ウンジは同じ中学の映画部に入り出会いました。
四人とも中学生になる前から、そして今現在も心に傷口を持っています。
たとえ傷を持っていないように見えても、何かしらあるもので、自分が昔々に中学生だったころのことを思い出したりしました。
韓国では高校受験がなく、特目高(特殊目的学校。外国語学校や科学学校、自律型私立学校など)に行く場合は内申書や面接で選抜されるそうで、四人は同じ一般高校シニョンジン高校に入ることを中学三年生になる前に行った済州島旅行で突発的に決めて、タイムカプセルに書いて埋めます。
裏切りはなし。

でも、中学で成績が一番のダユン、私立女子高に親が行かせたがり校区に住んでいる叔母の家に住所を変えたヘインはシニョンジン高校を第一志望に書けるのか、どきどきしながら四人の中学時代を一緒に歩いている気持ちで読み進めます。
ソランはわりと被害者意識の強い子だし、ウンジは小6のときにいじめられてシニョンジンに引っ越してきたということも分かり、どこの国でもきっと子供はそれなりに生きていくのがしんどい時もあるものだと思いました。
日本は高校受験はあるし、韓国と文化的に違うことも似たこともあるけれども、子供でも親でも自分自身が生きていることで幸せだったり不幸だったり傷ついたり、悲しくてやりきれないことが普通にあるのは一緒だと思います。

ある時点で選択したことによって将来が決まってしまう。
その選択が正しいことなのか間違いなのかそんなことは先に進んでみないことには分からないのです。
正しさなんて誰にもなかなか決められないことだしこれが正しかったのかは分からないけれども、自分たちで決めて四人で同じ高校に行くことを選ぶソラン、ダユン、ヘイン、ウンジの先にたくさんの小さな幸せがあればいいと思います。
あと、チョ・ナムジュ作品はフェミニズムが少し感じられて、そういうところも同じように憤ったりできたのではないかと思いました。

いじめはどこの国でも問題になっていると思うので気になるのはやはりウンジがいじめられて、いじめた相手の父親が日本で買ってきたと恩着せがましく持ってきたクッキーのことも、ウンジの父親とビール飲みながら話せば分かるみたいなことを言ってきたことも、ウンジの祖母と母親がそのことで切れたこと。

学校で聴聞会みたいな学暴委を立ち上げて動ける韓国は、日本より進んでいるのかと思うけれども男尊女卑はどこにでもきっと転がっていてウンジのお母さんの気持ちを思うと悔しいし、それよりウンジの気持ちを考えたら目の奥がつんつんしました。
仲良かったのにわたしは何かしてしまったかとウンジがいじめた相手ハウンに電話して聞くと、あんたは何もしていないよただあの時は急にあんたのことが嫌いになったの、と言われた時の気持ち、そういうのもとてもとてもリアルに読み取れます。
四人がシニョンジン高校に入学してそれからどうなっていくのか、時々四人はどうしているのかなと思うような、誰かとこの小説を読んで話ができたらいいなと思うような本だと思います。
ますます、韓国のことを知りたくなりました。

(レビュー:真夏日和

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ミカンの味

ミカンの味

『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュの新作長編小説! !

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