だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『生命には意味がある』長沼毅著

提供: 本が好き!

深海や地底、北極南極、砂漠、火山などの極限環境で生きる生物を研究する著者が「生命」について迫った本です。
よく「命の誕生は奇跡だ」というが、温度や圧力、紫外線、放射線にさらされても生き延びられるような生命も奇跡的な存在だと思う。 本書が上梓されたのは2012年だが、そのちょっと前にNASAが重大発表をするという前置きのニュースが流れました。
地球にエイリアンがいたか宇宙の果てに知的生物がいる痕跡が見つかったのかとも思ったが、発表はカリフォルニアの湖に住む微生物のDNAがリンの代わりにヒ素を用いているという物だった。
リンの代わりにヒ素を使うことができるなら、炭素の代わりにケイ素を使う生物もいるかもしれない。
本体にケイ素を使う生物は今のところ見つかっていないが、カイメンやケイ藻、植物のケイ素の利用法を見ていきます。

そこから宇宙の真空状態にさらされても生き残ったクマムシや、塩分や乾燥に強い微生物ハロモナス、サイズの極限の話でクジラ、ゲノムサイズの下限の極限など多岐にわたる極限環境を見ていきます。
極限環境はもちろん宇宙へも広がり、火星やタイタン、エンケラドゥス、カイパーベルトの小天体で生物がいるかもしれないという夢のある話が語られていく。

「どんな環境で生きられるか」の次は「どれだけ長く生きられるか」という話になります。
個人を見れば死は避けられないが、遺伝子は生殖により次の世代へ受け継がれていく。
もちろん途中で途絶えることもあるが、遺伝子レベルで世代交代を繰り返しながら生き続ける可能性と限界について見ていきます。
遺伝子を残すために生物は様々な戦略をとるが、ヒトとチンパンジーは「闘争」という手段を持っている。
チンパンジーの闘争は激しいそうで殺し合いは当たり前という社会だが、チンパンジーと99%一致するゲノムを持つヒトの社会にも闘争は存在する。
「協調する能力」も持つヒトがホモ・サピエンスからより平和的な種族である「ホモ・パックス」に進化できるかどうかが論じられていきます。

さらに地球という環境の変化について、温暖化と寒冷化を繰り返す地球の歴史を振り返って未来を予測する。
陸地と海の大幅な変化にヒトが文明を保ったまま適合していけるのかは何万年スパンで見ていかなければならないのだろうが、答えを見ることができないのは残念だ。
ミクロの生命から宇宙へとつながる大きな話を分かりやすく語る本だった。

(レビュー:DB

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
生命には意味がある

生命には意味がある

南極や深海や宇宙などの極限環境に生きる生命の神秘から、人間の寿命はどこまで伸ばせるか、不老不死の生命はありえるのかという問題、地球環境と人間文明の未来を見据え、平和な人間(ホモ・パックス)への進化を夢見る。科学の視線から、人間存在への根本を問い直して、生きる意味を探る、科学者の思考の冒険。

この記事のライター

本が好き!

本が好き!

本が好き!は、無料登録で書評を投稿したり、本についてコメントを言い合って盛り上がれるコミュニティです。
本のプレゼントも実施中。あなたも本好き仲間に加わりませんか?

無料登録はこちら→http://www.honzuki.jp/user/user_entry/add.html

このライターの他の記事