話題の著者に聞いた、“ベストセラーの原点”ベストセラーズインタビュー

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あいるさん、これは経費ですか? 東京芸能会計事務所

『あいるさん、これは経費ですか? 東京芸能会計事務所』

  • 著者: 山田 真哉
  • 出版社: KADOKAWA/角川書店
  • 定価: 480円+税
  • ISBN-10: 4041021731
  • ISBN-13: 978-4041021736

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『あいるさん、これは経費ですか? 東京芸能会計事務所』著者 山田真哉さん

 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第66回の今回は、公認会計士でありながら作家としてベストセラーを連発、ビジネス書から小説まで幅広い作品を執筆し支持を集めている山田真哉さんです。
 山田さんは現在、日本最大級の芸能界専門会計事務所である一般財団法人芸能文化会計財団で理事長をつとめています。芸能人や作家たちの「お金」事情はどうなっているのか…?誰もが気になるところを小説にしたのが、新作『あいるさん、これは経費ですか?』(KADOKAWA/刊)です。
 超人気アイドルグループの元センターがひた隠しにする真実とは? タレントと事務所がお金でもめるのはどういうとき? 芸能人の裏側をえぐる衝撃の作品についてお話をうかがいました。

■ 事務所が9割のところも…芸能人のギャラ配分とお金の事情

― 『あいるさん、これは経費ですか?』は山田さんにとって4年ぶりとなる小説の新刊になります。今回、小説をお書きになったのはどうしてですか?

山田真哉さん(以下敬称略): このシリーズの舞台は芸能界なのですが、これはノンフィクションよりもフィクションの方が書きやすいということがまずあります。実話として語ると、当たり前ですが各所に迷惑がかかってしまいますが、フィクションにすると伝えられることが広くなります。
また、税金についても同じで、法解釈の問題もあるので、フィクションの方が書きやすいんですね。実務上はケース・バイ・ケースなので。

― 山田さんは現在、芸能文化会計財団の理事長として芸能人や作家、役者といった方々向けの会計事務所を運営されています。このシリーズは現在の山田さんの活動をモチーフにされていらっしゃるのですか?

著者近影

山田: そうですね。もともと僕自身が作家業のおかげで芸能界とつながりがあったことや、会計業界が今、すごく細分化されているので、差別化のために芸能専門の会計事務所をはじめたのですが、お金や税金の本については、エンターテインメント業界を舞台にすればみんなに興味を持ってもらえるのではないか、という考えがありました。経営者としての選択と作家としての選択が一致した感じです。

― 芸能界のお金の話は興味を持っている方も多いと思う一方で、詳しく知る機会が少ないですよね。山田さんから見て、芸能界は特殊だと思いますか?

山田: 一般的なビジネスマンの感覚から見れば、だいぶ特殊だと思いますよ。まず貧富の差がものすごく激しい。同じ会社で働いていても、正社員ならば給料の差があっても2~3倍くらいですよね。でも、芸能界は同じ番組に出ていたとしても、100倍くらい年収が違うこともあるんです。それが普通と考えると、特殊ですよね。
また、テレビにいっぱい出ているからお金持ちかというと、実はそうでもない。頑張っていっぱいテレビ番組に出ても貧しい人はいます。

― ギャラが少ないから、ということですか。

山田: そうですね、ギャラの単価が低い。あとは、事務所との配分の問題もあります。例えば芸能人1:9事務所のところもあれば、芸能人9:1事務所のところもあるんです。つまり前者はギャラの9割が事務所にもっていかれて、芸能人は1割という配分ですね。3月に出る第2巻『結婚指輪は経費ですか?』では、ギャラ配分にからんだ事件も描いています。

― なるほど。本の話に戻りますが、登場人物の名前がとても特徴的です。天王洲あいる、竜ヶ水隼人、烏山千歳、飛田給、桜上水芦花、船橋法典など、駅名で統一されています。

山田: 『女子大生会計士の事件簿』では歴史上の人物から名前と性格を借りていたので、今回は駅にしました。
これは、本を読んでもらうきっかけ作りの一つでもあるんです。僕が本を書く最終目的は会計や税金について親しみを持ってもらって、勉強してほしいということなんですが、そこに向かわせるために芸能界をテーマにしたり、駅名が出てきたりという入り口を設けているんです。
読者の中に京王線沿線に住んでいる人がいらっしゃって、「自分の住んでいる場所の最寄りの駅がまだ出てこない」というコメントもいただきました。

― 山田さんは鉄道もお好きなんですよね。

山田: そうなんです。その好きな鉄道の中でも、特に思い入れのある路線を使っています。例えば竜ヶ水駅と隼人駅は日豊本線にある駅なのですが、両親の実家に近いのです。また、日豊本線は錦江湾沿いを走る路線で、とても景色が美しいんです。桜島がドン!と見えて。

― 3曲目の「職業・新人作家」では、松本や新島々など長野県の駅名が出てきますね。

山田: あの辺もいいですよね。「アルピコ交通上高地線」という路線が走っているのですが、この路線も個人的にお気に入りなんです。

― その駅のイメージがキャラクターを作っているわけですね。

山田: 「姓名診断」があるくらいですから、名前はその人の人格をつくり上げる重要なものだと思うんですね。適当な名前からは適当なキャラクターしか生まれないと僕は考えています。

― 小説を書いているときに、キャラクターは勝手に動き出す感覚ですか? それとも山田さんの中で計算してキャラクターを動かしているのですか?

山田: 勝手に動き出してしまうタイプですね。彼女ならどうするだろう、彼ならどうするだろうと考えます。『あいるさん、これは経費ですか?』シリーズもキャラクター文芸と位置づけられるのですが、キャラクター文芸の特徴は「キャラが立っている」、つまりキャラクターが物語をつくっているということ思うんです。だから、この物語の結末もこのキャラクターだからこそという部分はあります。

― ご自身を投影したキャラクターを小説の中に登場させることはありますか?

山田: これはですね…、私小説は別として、著者自身が投影したキャラクターが出てくる小説って、僕は大嫌いなんです。どうしてもその著者さんのイメージに引っ張られてしまって、キャラクターに没入できない。
例えば芸能人の方がアニメに声優として出演されることがありますが、これも凄く苦手です。どうしてもその芸能人の方のイメージが大きくなってしまうんですよね。

もちろん、声で演じることが上手な方もいらっしゃいます。例えば『アナと雪の女王』の松たか子さん、神田沙也加さんは全く元のお二人を感じませんでした。それくらい、完全にそのキャラクターを演じていましたよね。でも、キャラクター以上に中の人を感じさせてしまう人もいて、そうなると萎えてしまうんです。

― 著者がそのままその小説の中に登場するケースは、ビジネス小説ではよく見かけますね。

山田: そうなんですよね。この先生役はきっとこの人自身のことなんだろうなとか。僕はそれが嫌なので、いっさい自分を出さないようにしているつもりです。

■ 巨額の印税、公認会計士でも金銭感覚は「狂った」

― 『あいるさん、これは経費ですか?』は芸能界、出版業界を舞台にした小説ですが、特に出版業界にはかなり切り込んでいると感じました。

山田: 3曲目の「職業・新人作家」は某出版社の某新人文学賞をモチーフにしたのではないかと思われる書き方をしていますね(笑)。賞金が巨額で、実力が疑問視されている小説が文学賞を受賞するという。実際、内部の話は知らないですよ。本当は何が起きていたのか分かりませんが、こういう事件もありえるということです。

― 最近も芥川賞の直木賞の発表がありましたが、賞金に税金はかかるのだろうかと疑問に思っていました。

山田: その部分は正確に書いています。賞の体裁によってケースが分かれるんですね。例えば先日お笑い芸人の又吉直樹さんが純文学作品を『文学界』に発表しましたが、もしあの作品がなんらかの賞を取った場合、その賞金は一時所得になるであろうと思われます。

ただ、あのような形で『文学界』が注目されて、大増刷という状況になったのは、出版界にとって嬉しいニュースです。結局、作品だけで評価されるわけではなく、誰が書いたかも重要になると思うんですね。芸人が芸人のことを書くというのは興味がそそられますし、何を書くんだろうと思うじゃないですか。

となると、やはり会計や税金のことも、会計士や税理士が書くべきだし、芸能界を舞台にするならば芸能人専門の会計事務所を経営している自分が書くべきだという、ある種の使命感を持ってこの本も書きはじめました。

― 芸能界の「お金」にまつわるお話をもっと聞きたいのですが、例えば「一発屋芸人」の方々がいらっしゃいますよね。彼らは貯金などをちゃんとしているものなのですか? 税金が払えなくなるということはあるのでしょうか。

山田: 貯金をしていない方が多いように思いますね。
うちの事務所で実際にあったのは、CMの仕事が決まって1000万円のギャラを受け取りました。そこで1000万円の車を買ってしまいました。「アナタ何考えているんですか。ギャラ1000万円だと、アナタの場合40%は税金で取られますよ」と。だから、買うなら600万円の車にするべきなんです。でも、1000万円入ったら1000万円使ってしまう。これは芸能人に限らず、一般の方々にもいると思います。

― プロ野球選手が大減俸になったとき、ファンがよく「税金払えるのかな」と心配するんですね。

山田: ありますよね(笑)。特にプロ野球選手の場合は個人事業主ですが、必要なものはだいたい球団から支給されますから、経費になるものが少ないんです。だから、例えば年俸2億円をもらっていても1億8000万円くらい所得があるということになります。

税金はこの所得に対してかかるので所得税というのですが、1億8000万円だと所得税は7600万円くらいかかります。これは確定申告をして、翌年の3月15日までに納めます。さらに、翌年の6月から翌々年の5月まで住民税が発生します。この住民税は1億8000万円の10%なので、さらに1800万円です。結構後にかかってくるものなので、意外とダメージが大きいんですよ。

― もしかしたら使いきってしまっているかもしれない。

山田: 住民税を払うために借金する人もいます。芸能人などの個人事業主は節税対策で会社を設立したりするのですが、プロ野球選手の場合はかなり特殊で、球団との個人契約なるのでなかなか節税対策は取れないんです。だから、かなり厳しいと思いますよ。

― そもそも、プロスポーツ選手も芸能人も会計の知識を持ち合わせている人はほとんどいないわけですからね。

山田: そうなんですよね。お金持ちになりたいというハングリー精神があっても、税金に詳しいわけではないから、頑張っていっぱい稼いでいっぱい税金払う人がほとんどだと思います。税の知識は自分の稼ぎを守ることに直結するので、そういうところを踏まえてこの本も読んでくれると嬉しいですね。

もちろんそれは一般の方々も同じで、年収1000万円ってすごいと思うことかもしれませんけど、実際税金や社会保険なども引くと、手取りは700万円くらいになるんです。年収500万円だと400万円。そう思っていないと、ムダに気分だけが大きくなりますよね。

― 一気に大金が入ると、やはり金銭感覚は狂ってしまうのでしょうか。

山田: 狂ってしまう人はたくさんいますよ。例えば食費って、家族がいても月5万円から10万円くらいだと思うのですが、1ヶ月500万円という人もいますからね。外食をしてみんなにおごっていれば、それくらいになる。年間に直すと6000万円ですよ。ほかに洋服、アクセサリー、車とか、移動も全部タクシーを使ったり。家の近所のコンビニに行くのもタクシーに乗るんです。そんなことをしていると月に数百万円は余裕で消えていきます。
かく言う僕も『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』が売れたときは、金銭感覚がおかしくなりましたからね(笑)

― 山田さんでも金銭感覚が狂うんですか?

山田: そうなんです。通勤にタクシーを使っていました。当時、電車通勤をすると1回乗り換えがあったんですね。それが面倒で。タクシーだと片道1200円くらいなんですが、まあひどい話ですよね。

― お金があるからタクシーでもいいだろう、と。

山田: 通勤だから経費で落ちますしね。それを1年くらい続けていたのですが、今思うと何であんなことやっていたんだろうと思います。

― お金に関する知識が豊富な山田さんでも、そうなってしまうんですね…。

山田: 僕は公認会計士ですし、すごくケチケチしているので(笑)自分だけは狂わないと思っていたんです。それでもタクシー通勤をしてしまうわけですからね。
ただ、僕は経費になるものにしか使わなかったのですが、その部分の知識がないと、経費にならないものに使ってしまうことになるんです。例えば自動車を4台買って、4台分全てを経費で落とすのは難しいでしょう。だから、もし自動車を買いたいけれどどうすればいいのかという相談を受けたら、中古車を買いなさいとアドバイスします。経費に落ちやすくて、4年落ちの中古車ならば、1年で経費に計上できます。それを売るなり譲るなりして、また別の車を買えばいいわけです。
事前に税理士や会計士に相談できればそういうアドバイスを受けられるのでしょうけどね。

― 売れていない段階から税理士や会計士のお世話になることってあまりないですよね。

山田: だいたいは売れてから相談に来るか、税務調査が入ってしまったことがきっかけで来るか、ですからね。つまりは末期の状態なんですが。芸能界で税理士なしで確定申告をやり続けるのは難しいですね。

― これが書かれているのが、4曲目「職業・作詞家」のエピソードですね。

山田: 税務調査が入るまで何もしないというエピソードですね。こうなった挙句に、調査が入って申告漏れの事実がメディアに出てしまうと、大変な事態になりますから。そうならないための役目を税理士は担っているんです。

また、もう一つ、税理士には大きな役目があります。それは、芸能人の方々が活動しやすい環境をつくることです。お金の面からどういう戦略で仕事をやっていくのかを一緒に考えたりします。

また、売れていない役者さんや芸人さんに対して、いつ見切りをつけるのかアドバイスをすることも重要な仕事です。夢だけでは生きていけませんし、今後の人生設計もある。だから、「お金の面から考えたとき、あなたはこの先やっていけませんよ」と死神役を請け負うこともあるんです。「いつ諦めるの?」「今でしょ」という感じで。本人は線引きできないものですから、第三者がアドバイスをしないと踏ん切りがつかないんですね。

■ 税理士だけが知っている、事務所もマネージャーも知らないアイドルの秘密

― 本のネタバレになってしまいますが、一曲目の「職業・アイドル」では、超人気アイドルが実は結婚をしていて、完全に計算して「アイドル」を演じていたというエピソードが披露されます。実際に、その人のお金まわりをみるわけですから、どんな生活をおくっているか分かるところもあると思うんですね。アイドルに詳しい山田さんとして、夢が壊れることはないのですか?

著者近影

山田: そうですね…。確かにアイドルは好きですけれど、夢が壊れるというより感心することのほうが多いですよ。あ、この人はこんなにしたたかに計算しているんだとか。
僕が見る限り、芸能界で成功するアイドルは2種類ありまして、一つはすごく計算している人。つまりは完全に自分のキャラクターを演じている人です。もし彼氏がいて同棲していても、表には全く出ません。もう一つはナチュラルな人。テレビに出ているまんまの人です。

大半の人はどこかで演じたり、計算したりするのでしょうけど、それを我慢している人は途中で挫折してしまうことが多いんです。でも計算している人は計算することすら楽しんでいます。
だから、売れているアイドルのブログを読んでいて少し「我慢している」感じが出てくると、心配になりますね。ただ、そういうことはファンの方々のほうがよく理解していると思います。

― それはとても分かります。

山田: また、顧客なのでネット上での噂もチェックしているのですが、まったく当たっていないときと、当たっているときがあります。だから、いくら信憑性があってもネット上の噂を鵜呑みにしてはいけませんよ。もちろん、当たっているときもあって、それは怖いのですが。
一番幸せなアイドルファンというのは、計算され尽くされた完璧なアイドルか、裏表がないナチュラルなアイドルを応援する、なんでしょうね。

― 確かにそういうアイドルはファンを裏切るような行動を見せませんからね。

山田: そうなんですよね。でも、この作品で書かれているような、「本当は結婚しているけれど事務所もマネージャーも知らない」という話も近いのは実際にありました。税理士だけが知っている事実です。お金の動きを見れば分かってしまう。僕が言えるのはここまでです(笑)

― それは聞きたくない事実でした…。

山田: 本当に計算されているということですね。

― では、山田さんが影響を受けた3冊をご紹介いただけますか?

山田: 3冊ですね。まずは田中芳樹先生の『アルスラーン戦記』という小説を挙げたいと思います。田中先生の『銀河英雄伝説』は僕にとってのナンバーワンの作品なんですが、作家として影響を受けているのは、やはり『アルスラーン戦記』です。
冒険活劇で、キャラクターがすごく立っているので、キャラクター小説として素晴らしい作品だと思います。また、中世ペルシアが作品の下敷きになっていて、歴史的な合戦とか、中国の歴史なども織り交ぜられていて、「リアルを下敷きにしたフィクション」の書き方をこの小説から教わりました。

次にあげるのは『銀河旋律』です。これは演劇集団キャラメルボックスさんの戯曲なのですが、とても短い話でページ数も少ない中に、物語の喜怒哀楽が詰まっています。僕自身は小説では短編やショートショートしか書かないのですが、この『銀河旋律』は飽きさせない、面白いという短編の醍醐味が詰まっています。

― 最後の一冊はいかがですか?

山田: 悩んだのですが、川原泉さんの『川原泉傑作集 ワタシの川原泉IV』にします。この方は少女漫画のジャンルに入るのですが、哲学的だったり理系的だったりという要素が漫画に含まれていて、すごく独特なんです。デビュー作品が「たじろぎの因数分解」ですからね(笑)

― 星雲賞も取っていらっしゃいますね。

山田: 星雲賞コミック部門を受賞した『ブレーメンII』は一応SF作品ですね。旅情系SFとでも申しましょうか。僕は川原さんの作品をほぼ全て揃えているのですが、どれか一つの作品にはしぼれないので、最近出版された『川原泉傑作集 ワタシの川原泉IV』をここでは挙げたいと思います。
あ、哲学的とか理系的とか言いましたけれど、まったく難しくないですよ。笑いの要素が最もふんだんに入っています。僕も本を書くときに笑いの要素を入れようと努力しているのですが、川原さんの漫画はその点でも素晴らしいです。

― では最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いできますか?

山田: 『あいるさん、これは経費ですか?』の第1話と、3月に出る第2巻『結婚指輪は経費ですか?』の第4話が個人的に面白いので、そこだけでいいので読んでほしいです。その2本は、僕が今まで書いてきた作品の中でも一番好きです。
この2つの話を読んでもらうために、ずっと会計士を頑張ってきたといっても過言ではありません(笑)。第1巻第1話の最後の5行と、第2巻第4話のあいるさんの決めゼリフ。これを書くためにずっと仕事してきたと、書いていて思いました。僕は本業は会計士ですが、魂は作家志望なんだなと思った瞬間です。
ぜひ、その部分を楽しみに読んでみてほしいですね。

■ 取材後記

 この『あいるさん、これは経費ですか?』は、芸能界や出版業界と縁の深い山田真哉さんだからこそ書くことができる一冊。アイドル戦国時代と呼ばれる今、「あなたはそれでもアイドルを応援し続けますか?」と問いかけるような第1話、出版不況の「なれの果て」が浮き彫りになる第3話など、輝かしい世界の裏をえぐる“お金”のエピソードは誰もが引き込まれるはず。3月に発売予定というシリーズ第2巻も楽しみです。
(新刊JP編集部/金井元貴)

山田真哉さんが選ぶ3冊
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プロフィール

■ 山田真哉さん

作家、公認会計士・税理士。日本最大級の芸能界専門会計事務所である一般財団法人芸能文化会計財団で理事長を務める。1976年、神戸市生まれ。大阪大学文学部史学科卒。東進ハイスクールを退職後、公認会計士試験に合格。中央青山監査法人/プライスウォーターハウスクーパースを経て、2004年、独立。著書に『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『女子大生会計士の事件簿』他。

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あらすじ

モデルを目指し、鹿児島から上京してきた竜ヶ水隼人。そんな彼が出会ったのがあの超人気アイドルグループのセンターで…? 彼女が隠している秘密とは? さらに美人だけれど暴走する会計士・天王洲あいるに振り回されることに…。誰もがのぞいてみたい芸能界の“お金”の話。「会計」×「ミステリ」の実用的エンタメ小説が登場。 

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