話題の著者に聞いた、“ベストセラーの原点”ベストセラーズインタビュー

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謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉

『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』

  • 著者: 高野 秀行
  • 出版社: 新潮社
  • 定価: 1800円+税
  • ISBN-10: 4103400714
  • ISBN-13: 978-4103400714
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『また、同じ夢を見ていた』
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『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』
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『ニセモノの妻』
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『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』
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『悪の力』
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『鬼神の如く―黒田叛臣伝―』
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『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』
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『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』著者 高野秀行さん

出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。
記念すべき第80回のゲストは、誰も行かない世界の辺境を冒険するノンフィクション作家・高野秀行さんです。

第35回講談社ノンフィクション賞を受賞した『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』(本の雑誌社刊)、『恋するソマリア』(集英社刊)の2冊のソマリア紀行本が話題となった高野さん。
最新作『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』(新潮社刊)は、日本の伝統食だと思われがちな納豆が、アジアの辺境地域の少数民族の間でも日常的に食べられていることを発見したことから始まり、あまりにも深すぎる納豆紀行が展開されるノンフィクションです。

タイ、ミャンマー、ラオスの一帯から始まり、ブータンやネパール、中国から日本へ。飽くなき納豆の探究の旅の果てに見つけたものとは…? 高野さんにとってはこれまで行った場所の再訪が多かったという「センチメンタルジャーニー」の全貌と、アジア納豆の奥深さについてお話をうかがいました。

interview index

  1.  アジアの辺境は「納豆民族」で溢れていた
  2.  納豆と川海苔をベースにしたディップが最高に美味い!
  3.  取材は海外よりも日本の方がキツイ
  4.  辺境人たちがすべきは減塩運動?
  5.  辺境人たちは「嫌になったらどっかに行っちゃう」
  6.  旅先で読みたくなるのは「短歌」と「俳句」
  7.  取材後記

アジアの辺境は「納豆民族」で溢れていた

― 2013年頃にはすでに納豆にハマっていることを公言されていましたが、ついに書籍になりましたね。

著者近影

高野: 3年かかっちゃいましたけど、本になりました。

― 今回は納豆ということですが、納豆をめぐる旅のきっかけは?

高野: スタートはミャンマーの少数民族であるシャン族の納豆です。もともとシャン族とは付き合いが深くて、彼らの独立運動を手伝っていたこともあるのですが、今まで一度も彼らについてまとまった文章を書いてこなかったんですよ。

だから、シャン族について書きたいというところで始めたのですが、調べている中で、納豆に目が行くわけですね。もちろんそれまでも辺境地域で納豆料理を食べていたわけですけど、そういえば、なんでこんな辺境に納豆があるんだろうと。そこで納豆について調べて出したところ、これが面白くて、深みに入っていってしまったという流れですね。

シャン族の間では、納豆は「トナオ」と呼ばれていて、薄焼きせんべいのような形をしているものもあります。でも、匂いはまさしく納豆。しかも彼らは「私たちのソウルフードだ」と言っているんですよ。

― サブタイトルにもあるように、日本の納豆についても調べていますよね。

高野: 辺境の納豆を知れば知るほど、日本の納豆と比較したくなります。でも、日本の納豆のことがまったく分からないんです。そこで調べてみると、これがまた意外なことだらけで、「めちゃくちゃ面白い!!」となりました。

― そもそも納豆は日本の伝統的な食材というイメージがありますけど、日本だけではないんですね。

高野: そうではないんですよ。日本人よりも納豆を食べている民族はたくさんあります。

― なぜ東南アジアの辺境地域にも納豆があるのでしょうか。

高野: 本の中でも書いているけれど、納豆は「山の民」の食べもので、いわば辺境食なんですよ。

平野部は土地が豊かで、大きな川があって、そこには魚もいるし家畜も飼いやすい。海があれば魚介類も獲れます。だから人口が増えるし、文明も発達していく。そういう経緯を辿って、平野部の民族がマジョリティになっていくわけです。ミャンマーにしても、タイにしても、マジョリティは平野部にいます。

一方で少数民族は山岳部にいることが多いから、どうしても動物性たんぱく質やうまみ調味料にアクセスしにくいんですね。そのため、痩せた土地でもよく育つ大豆由来の納豆を貴重なたんぱく源と旨味調味料にしているんです。

― この本でそのことを知って驚きました。納豆は辺境地域の環境とよく合う食べ物ですよね。

高野: そうなんですよ。だから、今回の納豆の旅は、僕にとって「センチメンタルジャーニー」のような感じで、今まで行ったことがある場所を再訪することが多かったんです。シャン族もそうだし、カチン族、ナガ族も。あとは中国のミャオ族、ブータンもそうでした。

著者近影

(地図は本の中で高野さんが訪れた場所。シャン族はチェンマイ、チェンダオ、タウンジー、チェントゥンあたり。カチン族はミッチーナ、ナガ族はナガ山地、ミャオ族は鳳凰古城)

納豆と川海苔をベースにしたディップが最高に美味い!

― この本にはさまざまな納豆料理が出てきますが、バリエーションが豊富です。

高野: 日本だとダイレクトにご飯にかけて食べる方法が一般的ですけど、生だけではなくて炒めてあったり、ペーストにしてあったり、せんべい状になっていたり、食べやすくなっているのも辺境の納豆料理の特徴ですね。

― 日本人の中にも納豆が苦手という人はいますが、アジアの辺境の納豆民族の中にも苦手という人はいるんですか?

高野: それはもちろんいますよ(笑)ただ、日本人ほど多くはないです。日本人は納豆が苦手な人が多すぎます。その辺も「納豆後進国」ですよね。

― 納豆紀行の中で、一番美味しいと思った納豆料理はなんですか?

高野: これはいろいろあるのですが…まず思い浮かぶのは、シャン族の料理で、納豆と川海苔をベースにしたディップですね。そのディップに生野菜やゆでた野菜をつけて食べる。これが美味いんですよ。ザ・和食!という感じで。

― 納豆と川海苔をベースにしたディップという発想がすごいですね。

高野: そう使うか、って思いますよね。これってベジタリアン的な食べ物なんだけど、お肉も食べる人からすれば、野菜だけの料理って物足りなさを感じることが多いじゃないですか。でも納豆が入るだけで、その物足りなさが消えるんです。たんぱく質の力というか、お腹にたまるような感覚ですよね。

― 他に美味しかったものはありますか?

高野: ティラピアっていう魚の背中を開いて、そこに納豆とトウガラシとパクチー、たまねぎ、にんにくを混ぜたものを詰めるんです。それを揚げた料理は最高に美味かったですね。

やっぱり、馴染みのある味というか、懐かしい感じがするんです。どんなに加工の仕方が違っても納豆は納豆だから、食べると力が抜けるんですよ。

取材は海外よりも日本の方がキツイ

― 普段は紛争地域や危険地域に行かれることも多いですが、納豆紀行は今までの旅とどういうところが違いましたか?

著者近影

高野: 大きな違いは、納豆に関する取材だと言うと誰も警戒しないことですね(笑)。ソマリアなどソマリ人のエリアでは「スパイじゃないか?」と疑われることがあるし、警戒されることが多いんですけど、今回は「納豆?なんでこんなものを調べているんだ?」って不思議がられるだけですね。

でも、納豆は彼らが日常的に食べているものでしょ。それが自分の民族以外でも食べられていることを知ると、自然と打ち解けられるんですよ。

― 自分が普段よく食べているものを、相手も好きだといってくれたら嬉しいですよね。

高野: そうそう。それと同じですよ。日本人も外国人に「納豆のことが知りたい。納豆大好きです」といわれたら嬉しいですよね。だからこんなに取材が楽しかったことはなかなかないですよ。

― 逆に大変だったことはなんですか?

高野: 日本での取材が多かったことかな(笑)。

― 日本の方が大変なんですか。

高野: 日本での取材は、特に地方だと純粋にお金がかかるんです。東南アジアやネパールなんかは全くお金がかからないですよ。宿泊代も食費も交通費も大したことない。レンタバイクも一日、数百円程度。日本だと交通費はバカにならないし、取材先でレンタカーも借りないといけない。安い宿もなかなかないし…。

あとは、(日本の場合)取材をするときはアポ取りから始めなきゃいけないですからね(笑)

― そこですか!

高野: そこなんですよ。外国だと成り行きでどんどんいっちゃうことが多くて、市場で珍しい納豆を見つければ、すぐに作っている人に会いに行って、「納豆作りを見せてくれ」と言えばそれで見せてくれる。「こんな人がいるよ」と聞けば、その日が無理でも次の日にすぐに行けちゃうわけです。

日本の場合、まずスーパーで納豆を買って、良い納豆だから作り手のところに行って見せてほしいといっても、見せてくれるものでもありませんよね。だから、ちゃんと手順を踏んで取材しに行く。これだと旅にならないんです。仕事って感じで。

― 起こり得ることが想像できてしまう。

高野: それはきついです。あとは効率的に(取材先を)まわろうとしてしまうんですよね。それでも僕は家族旅行といって無理やり遊びにしましたけれど(笑)

辺境人たちがすべきは減塩運動?

― 高野さんが納豆旅行の末に行き着いたのが、日本の岩手県西和賀町で作られている「雪納豆」でした。

高野: 日本の納豆は後半に出てきますが、これはアジアの納豆を調べて行くうちに、日本の納豆はどうだろうと思って調べ始めたという時系列通りの流れですね。

最後の「雪納豆」は世界的に見てもすごく変わった作り方をしています。納豆はある程度の温度がないと発酵しないんですよ。でも、それを雪の中に入れるわけで、冷やしているんですよね。それが謎。また、ぜひこの本を読んでほしいのですが、作り方もかなり特徴的です。

― 「雪納豆」に辿り着いたところで、この本は終わっていますが…

高野: ところが最近知ったのですが、新潟の山古志村でも雪納豆が作られてあるという話を耳にしたんです。20年前にNHKが取材をして放送しているそうなんですよ。しかも、こちらもかなり独特な作り方をしていて、僕も取材をしなくちゃいけないなと思っています。

― 次々と新しい発見が出てきますね。

高野: アジアはもちろん日本でもそうですが、納豆って研究している人がすごく少ないんです。だから、研究者でも納豆専門でやっている人はそうそういないし、微生物学の中における納豆菌の作用みたいなことは詳しくても、文化や歴史まで知っている人はいません。

歴史もすごく面白くて、日本の場合、幕末までは今のような納豆をそのままごはんにかけて食べるのではなく、納豆汁が一般的だったようです。日本でも食べ方のバリエーションがあったはずで、そういうところとミャンマーや首狩りのナガ族の料理と比較すると面白みが出てくるんですよね。

― 納豆は日本だと健康食品として認識されていますが、アジアの辺境地域でも「健康に良いもの」という認識があるのでしょうか。

高野: 全然ないですね。むしろ「納豆の食べ過ぎには注意しろ」と何度か言われました。

というのも、向こうの納豆、特に生で食べる場合は塩辛いことが多くて、日本だと一時代前の味噌みたいな感じです。日本ではその後、減塩運動があったりして、高血圧を抑えようという風潮が出てきましたけど、アジアの納豆民族の中にもまさに同じような状況になっているところがあるんです。

― それは意外です(笑)。

高野: 冷蔵庫のない場所で保存食にするためには、しょっぱい味付けにしないといけないんですよね。でも、納豆に注意というよりは、塩に注意しないといけないわけで(笑)、減塩運動をしないといけないと私はいつも言っていましたよ。

辺境人たちは「嫌になったらどっかに行っちゃう」

― 高野さんは旅行先での健康管理はどのようにされていますか? これまでの本を読んでも体調不良で休むシーンが何度も出てきてきますが…。

著者近影

高野: まったく何もしてないです(笑)。生活は現地の人に合わせていますから、食事も出されたものを食べています。まあ、胃腸を壊すことは多いですが、今回の納豆取材は良かったですね。しょっぱ過ぎたり、トウガラシがきき過ぎていたりするのが困るくらいで、納豆自体は胃腸にいいですから。

― 異国の料理は人によって合う、合わないがはっきり分かれますけど、高野さんは食べ物で困ったことはないですか?

高野: それはないですね。何でも美味しく食べられます。

― 体調が悪くなったときの対処法は?

高野: これも特にないです。ただ寝ているだけ。でも、日程が窮屈になると疲れやすくなるので、時間をちゃんと確保して旅に出るほうがいいですね。

これは良くない傾向なんですが、最近忙しいんですよ。だから海外に行っても時間が限られてしまうことが多くて…。昔はお金がなかったけれど時間はあったので、そんなに疲れなかったです。過密スケジュールの方が疲れます。

― 旅の魅力とはなんでしょうか。

高野: 僕はテーマを持っていくので、そのテーマで新しいことが分かると何よりも楽しいんですよ。仕事ではあるけれど、趣味と変わらないんです。趣味と遊びと仕事の区別が全くない状態なので、それは最高ですよね。なおかつ謎が解けてカタルシスが昇華したときの瞬間とか、うまいお酒が飲めた瞬間とか…。

― 納豆旅行の場合、美味しい納豆料理に出会えた瞬間とか。

高野: それはもちろんだし、新しい納豆に出会えた瞬間なんかは特にそうです。

例えば今回、ナガ族という、もともと首狩りをしていた民族が住む地域に行ったんですね。まあ民族とはいっても20以上の小さな民族の集合体を指します。そのナガの共通する特徴って2つあって、一つは昔、首狩りをしていたこと。もう一つは納豆の食べ方が同じということなんです。

これはナガ族自身が言っていることで、彼らの民族の定義が首狩りと納豆って面白いですよね。そういう事実で会ったときのカルチャーショックが最高だし、それに勝る快感はないですよ。

― 高野さんがよく行かれる「辺境」において、納豆以外で共通する点はどんなところがあげられますか?

高野: 僕がよく行くような山岳地帯の辺境、いわば納豆民族は穏やかで素朴で謙虚であることが多いですね。日本人に近いと思います。

― 日本の特に農村部と共通するところがたくさんあるなと思ったのですが、日本の場合、共同体の内部でかなり強固に人間関係ができていますよね。そういうところはあるのでしょうか。

高野: それはないですね。場所や民族にもよりますが、日本ほど共同体意識はないし、開けています。首狩りをしていたナガあたりは、日本よりかも強いかもしれないけれど、村八分みたいなことはなさそうだし。

― 日本と何が違うのでしょうか。

高野: 日本は応仁の乱あたりから、村が結束して自衛していたらしいんですよね。そのあたりから共同体意識が強くなってきて、大名や幕府が年貢を取り始めると、その村の連帯責任になってより強固になる。それが今でも続いている感じがします。

アジアには連帯責任という考えは見られないですよ。すべては個人の責任ですから、年貢を納めるといっても村全体が責任を取ることはありません。

― 高野さん自身は、その村からみれば「よそ者」ですよね。そういう人は異分子として警戒されることも多いのではないですか?

高野: それはあると思いますが、そもそも民族の区分は20世紀に征服者たちが造り出した部分が大きくて、現地の人たちの間は入り混じっていることも多かったりするんです。

例えば、シャン族とカチン族の違いも曖昧で、里に下りてくればシャン族になって、山に戻ればカチン族になるというような人もいます。上下関係もかなりゆるくて、その場所が嫌になったらどこかへ行ってしまいます。移動性が高いんですよ。

― どこかへ行ってしまうんですか(笑)。

高野: 行ってしまうんです。日本人は嫌になってもどこかに行ってしまうことって少ないでしょ。日本の会社員を見ていると、嫌ならどっか行っちゃえばいいのにって思うんだけどね(笑)。アジアの人たちは勝手というか、もっと自由にやっていますよ。

旅先で読みたくなるのは「短歌」と「俳句」

― 以前出版された『辺境中毒』の中で、「旅に持って行きたい本を聞かれると、こっちが教えてほしいと思う」と吐露されていましたが、実際に本を持って行くときはどのような選び方をするのですか?

著者近影

高野: 長時間移動になりがちなので、ミステリ小説は持って行きますよね。あとはその時に興味を持っている本とか。

― 旅先で本を買うことはないんですか?

高野: 買わない、というよりは、僕が行くところは本が売ってないんですよ(笑)。今は電子書籍があるから、Amazon Kindleを持っていきます。その場で買って読むこともありますが、日本で事前に買ってダウンロードしていくことが多いかな。

― 高野さんが考える「旅に合う本」ってどんな本でしょうか。

高野: 旅先で読むのが好きな本というのがあって、俳句や短歌について書かれた本はそうですね。日本では読まないけれど、旅と相性がいいと思うんですよ。

『おくのほそ道』は松尾芭蕉が東北をめぐりながら作った俳句が載っているけれど、やっぱり「旅」なんですよね。どこかに行って、一句詠む。そういうスタンスが合っているのかもしれません。

短歌は、恋愛の歌が多いせいからなのか、青春を思い起こさせます。旅と青春は相性がいいんですよ。だからそのフレッシュな感覚が似ているように思いますね。日本ではまったく読まないけれど(笑)。あとは、日本語をいかに有効に使って表現するかということに心を砕いているから、すごく日本を感じられてほっとするんですよ。

― では最後に、高野さんがこれまでに影響を受けた本を3冊ご紹介いただけますか?

高野: 影響を受けたかどうかは分からないけれど、好きな本を3冊あげますね。まずは金子光晴の『どくろ杯』はすごく好きです。あと2冊は、ガブリエル・ガルシア=マルケスの一連の本から『百年の孤独』と短編集の『エレンディラ』を選びます。一つの理想の作品だと思います。

取材後記

私が初めて読んだ高野さんの著作が『アヘン王国潜入記』だったのですが、あまりの内容の凄さに驚き、周囲の人たちにお勧めしたのを覚えています。
この『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』も、飽くなき納豆への探究心に驚かされる一方で、日本の食べ物だと思っていた納豆がアジアの辺境地域で愛され、日常的に食べられているという事実に不思議な感覚を抱きました。
インタビュー中、納豆の面白さについて語る高野さんに影響を受けて、その日家に帰る途中で納豆を買い、食べたことは言うまでもありません。
(インタビュー・記事/金井元貴、写真/山田洋介)

高野秀行さんが選ぶ3冊

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『どくろ杯』
著者: 金子 光晴
出版社: 中央公論新社
価格: 724円+税
ISBN-10: 4122044065
ISBN-13: 978-4122044067
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『百年の孤独』
著者: ガブリエル ガルシア=マルケス (著), 鼓 直 (翻訳)
出版社: 新潮社
価格: 2800円+税
ISBN-10: 4105090119
ISBN-13: 978-4105090111
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『エレンディラ』
著者: ガブリエル ガルシア=マルケス (著), 鼓 直 (翻訳), 木村 栄一 (翻訳)
出版社: 筑摩書房
価格: 540円+税
ISBN-10: 4480022775
ISBN-13: 978-4480022776
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プロフィール

■ 高野秀行さん

ノンフィクション作家。1966(昭和41)年、東京都八王子市生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒。1989(平成元)年、同大探検部の活動を記した『幻獣ムベンべを追え』でデビュー。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかしく書く」をモットーとする。2006年『ワセダ三畳青春記』で第1回酒飲み書店員大賞を受賞。2013年『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』で第35回講談社ノンフィクション賞、第3回梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。その他の著書に『アヘン王国潜入記』『西南シルクロードは密林に消える』『イスラム飲酒紀行』『未来国家ブータン』『移民の宴』『恋するソマリア』などがある。(新潮社ウェブサイトより引用)

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『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』
著者: 高野 秀行
出版社: 新潮社
定価: 1800円+税
ISBN-10: 4103400714
ISBN-13: 978-4103400714

作品紹介

納豆は日本の伝統食と思っている人は必読! 実は日本は「納豆後進国」だった!?

冒険家・高野秀行さんがハマり込んだのは、アジアの辺境で見つけた「納豆」。日本人以上に納豆を食べている民族で、納豆料理の豊かさを知り、今度は日本の納豆も調査。
そもそも納豆とは何なのか? タイ、ミャンマー、ネパール、ブータン、中国、そして日本などをめぐりながら、縦横無尽な取材と試食の末に見えた納豆の素顔とは!?

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